アクマイザー

JUNK2006-2007


◆言葉足らず

「カノン、隣に座ってもいいか?」
やけに神妙な顔でサガが尋ねるものだから、却ってどう答えていいか困ってしまう。
「勝手に座ればいいだろう」
目も合わせずぶっきらぼうに答えると、兄は長衣の裾をするりとさばいて静かに腰を下ろした。オレの膝にサガの膝頭が当たる。密着しすぎじゃあないのか。避けようとしたものの、オレの座っているのはソファーの端で、身体をずらそうにも肘掛が邪魔をする。ほんの少し接触しただけなのに、オレは柄にもなく動揺した。
サガは俯いたまま黙っている。その沈黙が怖くて、TVでもつけようとリモコンに手を伸ばしたら、その手を阻まれた。
「お前は今でも私のことが嫌いなのか?」
唐突にサガが言う。何故そんな話になるのか判らなくて頭を回転させていると、サガはあの誰をも魅了する瞳でオレを見上げてきた。長い睫が揺らめく。この顔が自分と同じ顔だとは、オレには思えない。
「どうでもいいだろう、そんな事」
本心を兄に伝える気などないので、いつものように適当に流す。わざわざ男兄弟に好きだなんて伝えないだろう普通。照れもあるが、悔しさもある。
サガはオレが避けようとした事に気づいたに違いない。そっと身体を離した。
「すまなかった」
兄さんの身体とオレの身体のあいだに距離が出来た事で、安堵したのか無意識に息が洩れ肩の力が抜ける。何故かサガが悲しそうな顔をした。
サガはそのまま立ち上がると、もう1度すまなかったと言った。
「この宮はお前が使うといい。無理に私と暮らすことはない」
言われた意味を理解する前に、サガはオレに背中を向けて部屋を出て行った。慌てて後を追いかけたものの、その姿は既に見えない。
十二宮でテレポートは不可のはずだから、兄は異次元へとまず飛んだのだろう。そうなるとどこへ行ったのか、こちら側の世界から探すのはほぼ不可能だ。
嫌な予感がしてサガの部屋へ走り、乱暴に扉を開ける。
中は綺麗に片付けられていて、いっそすがすがしいほど、何も無かった。本気で出て行くつもりなのだ。
「あの馬鹿!」
どうしてそういう思考になるのだ。
もし仮にオレがサガを嫌っていたって、そんなことどうでも良いだろう。
昔のように説教垂れて「もしも私が死んだ時には」って言えばいいじゃないか。

オレはサガのスペアであることは嫌いじゃあなかった。
サガに必要とされている気がしたし、スペアであるオレが居なくなったら困るだろうと高を括っていた。そういう関係であるかぎり、どうやったってサガはオレから離れてなんか行かないと思っていたから。
サガが死ぬ事なんて想像もつかなかったので、もしもなんて話をされても、気にしたことは無い。

ああ、だけど馬鹿なのはオレだったのだろうか。
オレは慌てて上着を掴むと、サガを探すために異次元の渦へと飛び込んだ。


2007/10/5

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