アクマイザー

JUNK2006-2007


◆邂逅

アイオロスが初めてその冥闘士に出会ったのは、地上におけるハーデスの居城近くにある湖のほとりだった。

聖戦と呼ばれるアテナとハーデスの戦いが熾烈を極める中、聖域はようやく敵の本拠地とも呼べるその城を探し出た。しかし、その城は結界で守られ、その内部での聖闘士は持つ力の1/10も発揮する事が出来ない。
アイオロスは聖闘士の小宇宙を弱体化させる冥王の結界の調査のため、現地に赴いていた。
まず結界の範囲を知るためにぎりぎりの境界を測り、有効区域を地図に記してゆく。
地道な作業だが、場所がらの危険さから考えても、内容の重要性から考えても、白銀聖闘士以下には任せられない職務だった。
大まかな基礎調査を終え、その成果を聖域に持ち帰ろうとしたその時、彼は現れた。
「ハーデス様のお膝元まで聖闘士の侵入を許すとは、城の守備兵たちは何をしているのだ…」
ため息ともつかぬ声が静かに響き、アイオロスは瞬時に戦闘態勢へ入った。
気配を消していたにも関わらず、その冥闘士はアイオロスを難なく見つけ、それだけではなく視認範囲までこちらに気取らせず近づいてきたのだ。
敵は黄金聖闘士レベルの実力の持ち主であるということだ。アイオロスは気配を消すのをやめて声のするほうを睨む。
風が流れ、雲に隠れていた太陽が湖面を照らした。
サジタリアスの聖衣の翼が、照り返しできらきら光る。
相手は、ほぅ…という感嘆の声を漏らした。
「黄金聖闘士というものは初めて見たが、天使のようだな」
それは揶揄でもなく、嘲りでもなく、ただ単に感心したからという声で、常のアイオロスであれば戦時にありながらの敵のその余裕を警戒したかもしれない。
だが、今のアイオロスはそんな事を忘れてしまうほど、相手の姿に釘付けになっていた。
「…いやぁ、天使の名に相応しいのは君のほうじゃないかな」
やっとの思いで言葉を紡いだものの、その内容は戦場での会話とは思えないもので。
それほどその冥闘士は凛とした美しさを持っていた。
いや、凛として美しいと言うだけならば、聖域にも美の女神の名を冠する男が居る。
その冥闘士は、そういったものに加えて、何か別格の雰囲気を持っていた。
青みのある銀の長髪が、黒く輝く冥衣の上に無造作に流れ落ちて映える。
「君、ほんとに冥闘士?」
冥衣を纏っている相手に尋ねるにしては間抜けな質問だと思いつつ、アイオロスは声をかけずにはいられなかった。この男がハーデスの野望を信奉し、地上の命を絶つような人間には見えなかったので。
冥闘士は誰でもどこかしら闇の小宇宙を漂わせている。だが、目の前の男にはそれが見えない。善だけで形作られたような…ある意味不自然なほどに清らかな小宇宙が伝わってくる。
アイオロスの問いを侮辱ととったのか、相手の眉間へ僅かに縦じわが寄った。
「私はサガ。ハーデス様の理想のために尽くす者…お前のように戦神の元で地上を荒らす悪の闘士を打ち倒すため戦っている」
「うわ、冥闘士に悪呼ばわりされたの初めてだよ…」
アイオロスは目をぱちくりとさせる。相手は構わず問いかけてきた。
「お前の名は」
「ああゴメン、俺は射手座のアイオロス。あんまり君が綺麗だから見惚れていた」
「……」
ますます侮辱されていると思ったのか、サガと名乗った男の目つきが更に険しくなった。それすらも美しいと感じてしまう。
「じゃあ君は地上の冥界化が理想だと思って、冥闘士をやってるのか?」
「ハーデス様の力が地上を覆えば、真の平等が訪れる。人は飢えることもなく、この星はとこしえのエリシオンとなるだろう」
うーん、とアイオロスは考え込んだ。
どうもこの相手は今まで戦ってきた冥闘士とは勝手が違う。純粋なのか単純なのか、少なくともハーデスの理念を信じきっているようだ。
「それをおかしいとか思ったことは無いの?」
「ならばお前は、自らの奉じる神を疑った事はあるのか」
「あー…そう返されると無いとしか言えないけれど」
「戯言はもういい。貴様を倒す」
サガの右手がゆっくりと上がっていく。急激なエネルギーの磁場がその場に発生して、彼の手に集まっていくのが判った。何らかの必殺技の準備段階なのだろう。
アイオロスはそれを無視して、サガに近づいた。
「ねえ君、聖域に来ないか」
「……は?」
あまりに唐突な内容で、サガの動きが一瞬止まる。
「君に聖域を見てほしい」
「何のつもりだ。内通を誘う振りで罠に嵌めようとするのなら…」
「違う違う、俺たちのしていることを、君に見て欲しいんだ。俺たちの女神の事も…あっ、今ものすごく俺のことを馬鹿にしたろう」
呆れきった顔になっているサガが、右手に強大な小宇宙を混めたままこちらを見て大きなため息をつく。
「…気が削がれた。戦う気が無いのであればさっさと去れ」
その声と同時に、両脇から異次元空間が現れる。しまった、と思う間もなく、アイオロスは次元の狭間経由で遠くへと飛ばされていた。


「黄金聖闘士とは、あのような者ばかりなのか…?」
一人その場へと残ったサガは、射手座の立っていた場所に光るものをみつけてかがみこんだ。それは聖衣のパーツであると思われる一枚の黄金の羽だった。
(あの男はどこか太陽を思い起こさせる)
冥王の苦手とする地上の輝きに似ているなどと思ったのは、あの光る聖衣のせいだろうか。
そう思いながら、サガはその羽を無意識に握り締めた。


2007/9/12
一目惚れ同士。サガが冥闘士だったらどうだろうという妄想で。

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