JUNK2006-2007
◆憩い
教皇宮の控えの間で執務用の消耗品をそろえていると、アイオロスが扉を開けてひょっこりと顔を出した。
「どうしたのだ?この時間は修養時間のはずだがサボリか?」
不思議に思って首を傾げたら、アイオロスは心外だとばかりに頬を膨らませた。
「今は休憩時間!」
いちおう真面目に座学にも励んでいるらしい。アイオロスは逆に問い返してきた。
「君こそ、執務室に居ないと思ったらこんなところで雑用か?従者に任せれば良いのに」
「自分で使うものくらいは、自分で用意する。で、休憩時間のお前が何の用だ」
そう言ってやると、アイオロスは冗談ぽく笑う。
「君に会いに」
でも目が笑っていない。私は苦笑して作業の手を止め、アイオロスを部屋の外へと連れ出した。そしてそのまま手を引いて、教皇宮の横あいにある庭へと案内する。
教皇宮は高台にあるため、そこからは十二宮が一望出来る。
そのなかでも眺めの良い木陰を選んで腰を下ろした。
「気晴らしをしたいのだろう本当は」
アイオロスを見上げ、指でくいくいと座るよう促す。
友人が同じように隣へ腰を下ろすと、私は彼の腕を掴まえて無理やり自分の側へ引き倒し、その頭を膝に乗せた。突然の行為にアイオロスは驚いたのか赤くなっている。
「ひたすらに英雄と呼ばれ、次期教皇にまつりあげられるという立場もキツいだろう」
罪人と呼ばれるよりも…との言葉は胸の中だけに秘め、アイオロスを労る。
「私はお前がその名声に相応しく、また期待に負けぬ強い男だと知っている。だが、私の前でくらいは14歳のアイオロスであって構わないんだぞ」
そう言って髪を撫でると、彼は苦笑に近い笑みを浮かべた。
「結構、甘えさせてもらってる。でも俺は早く大人のサガに追いつきたいよ」
そう言いながら、英雄と呼ばれる少年は私に見えぬよう膝に顔を埋めた。
2007/8/14
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