アクマイザー

JUNK2006-2007


◆似たもの兄弟同士


「サガって真っ直ぐなんだよな」

アイオロスがジェラードをスプーンで行儀悪く突付きながら呟いた。
ジェラードはアイオロスが弟である獅子宮の主に持ち帰った土産だ。
木製の粗末なテーブルを挟んで、アイオリアとアイオロスは氷菓を口に運んでいる。
兄がサガのことを語るのを、アイオリアは複雑そうな面持ちで聞いていた。

「彼は人格が白い方へ傾いても、黒い方へ傾いても、ベクトルが逆なだけでどちらも真っ直ぐで純粋だ。純粋であるために二つに分かれているのかもしれないけれど」
「…黒い方は野望に正直なだけな気もするが」
「正直だね。正直すぎて不器用なタイプだ」
「うー…賛同はしかねるが、二重人格なだけで、個々では裏表の無い人だとは思う…」

二重人格を心の弱さであるかのように思うのは、うつ病が心の弱さによる甘えと考えるのと同じ誤解である。アイオリアはそれを良く知っている。確かにサガは心身ともに強く、真っ直ぐだ。
だが、流石にアイオリアは、黒サガに対して兄のようには論ずる事が出来ない。
それは、過去の黒サガの仕打ちを振り返れば無理もないことだった。兄が汚名をきせられた事による被害は、全て弟であるアイオリアが被ったと言っても良いのだから。
「お前には苦労をかけた」
スプーンを持ったまま、アイオロスがニコリと笑う。
この笑顔が曲者だとカノンがその場に居たら言うだろう。全ての闇を洗い流すような太陽の笑み。
その微笑も、ある意味で神のような笑顔であるわけだが、アイオロスは別にその笑顔で誤魔化そうとしているわけではない。サガと同様に心からのものだ。
ただ、それを見た弟たちが、兄の笑顔に負けてしまうだけで。
カノンもアイオリアも、兄の笑顔には弱かった。

「兄さんが帰ってきてくれたから、もういい」
アイオリアはぶっきらぼうに答えると、ジェラードを黙々と口に運んだ。
アイオロスが目を細める。
「お前は素直で嬉しいよ。サガの弟くんは素直でも正直でもないからなあ」
そこが可愛いんだけどと平然と言う兄に、アイオリアは口に入れたばかりの氷菓を盛大に噴出しそうになる。
「それ…本人の前で言わない方がいいと思う」
当然の弟の心配をよそに、こともなげにアイオロスは続けていく。
「カノンのあれは、偽るのが習いになってるんだろうね。最近はそうでもないようだが、まだまだサガに対しても素直じゃないし。海神を騙していたという頃は自分の心すらも騙していたのだろうな」
ポセイドンとの戦いを経験しているアイオリアは、その言葉には頷いた。
直接は戦いに参加していないものの、その時の海将軍たちとのやり取りは、星矢たちから話を聞いていた。
13年間を憎しみで生きるなどという事は、自分を騙さなければ無理だろう。
(俺が同じだけの期間、逆賊と言われた兄さんを心から消そうとしても、最後までは憎みきれなかったように)
アイオリアは海の底でのカノンを想像した。
13年前に兄を亡くした自分とは違い、13年たってから兄の死が訪れたカノンでは兄に対する憎しみの昇華の仕方も、気持ちの区切りも、また異なったに違いないとアイオリアは思った。
ただ、それも想像でしかないが。

「しかし、今のカノンは真っ直ぐだと思うよ兄さん。それに強い」
「そうだな、サガや女神の事になると素を見せてくる…あれが本来のカノンなのだろう」
アイオロスは残りのジェラードをひとくちで口に放り込んだ。
そしてまた笑みを浮かべて弟を見る。
「お前も、カノンと同じくらい兄想いだな?」
予期せぬ言葉で、今度こそアイオリアは食べていたジェラードを噴出した。
「おっ、俺はブラコンじゃない…あそこまでは」
反論するも、最後はごにょごにょと小さく付け加え。

今は弟よりも年下であるアイオロスは、にこにこと『それこそカノンの前で言わない方が良い』と返し、サガと同じ兄としての顔を見せるのだった。


2007/8/9

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