アクマイザー

JUNK2006-2007


◆あのとき

「偽教皇をやっていた頃は、何度も『あの瞬間に戻れたら』と思った」
目前にエーゲ海の碧が広がる堤防の上で、サガと俺は二人で立っていた。
「あの瞬間って?」
彼のクセのある銀青の毛先が潮風に揺れる。それを目で追いながら俺は聞き返す。
「シオン様を殺したあの時…もしくは、女神に刃を向けたあの時」
サガは穏やかな声で答えた。
「戻れたら、君はどうしていた?」
「そうだな。自分を殺したろうね」
人生にIFなど無いけれど、取り返しの付かない過去の修正が出来たらと何度望んだ事か…そう彼は言った。
「でも、もしも本当に戻れたら、今ならそうはしないだろう」
サガが遠くを見ながら笑う。
「今だったら、君はどうするの?」
鸚鵡返しのように、俺はまたサガに問う。
「過去の私に、女神を信じても大丈夫だからと伝えると思う」
「それだけ?」
「ああ」
「過去の君は判ってくれるかな」
「多分聞き入れはしないだろう。同じように私は女神を狙い、君を殺してしまう」
「最初と変わらないね」
「変わらないな。そして大勢の人に迷惑をかけて、最後には死ぬ」

俺は手を伸ばして、サガの髪に絡めてみた。手入れされて滑りの良い銀糸はサラリと指先でほどけていく。

「どう取り繕っても、私の愚かな過去は変わらない。皆が歩んできた茨の道を、私の罪を、簡単に無かった事にしてはならないと今は思う」
「そっか」
「それでも、嘆きの壁でお前に会えなかったら、そう思えなかったかもしれない」

サガもまた指を伸ばして、俺の額上の前髪をくるりと巻いた。
「ずっと聖域を見守っていてくれてありがとう、アイオロス。私はお前が好きだよ」
俺はずっとサガの爪を見ていたので、ごく自然に紡がれた告白に気づいたのは二人で聖域に戻った後だった。

もしも戻れる瞬間があるのなら、あのとき間をおかずサガへキスをしたのになと思った。


2007/6/4

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