JUNK2006-2007
◆ゼオライマー
私はごく平凡な高校生だった。どこにでもある普通の生活をただ静かに送っていたにすぎない。
ところが、突然現れた聖域の使者とやらは、その日常をことごとく破壊したのだった。
「迎えに来たぜ、サガ」
初対面の場で私と同じ顔を持つ男はそう言ったが、あれは出迎えではなくて拉致だ。
カノンと呼ばれるその男とシオンは、私の意思など関係なくここへ攫ってきたのだから。
ただでさえワケが判らないのに、ジェミニの継承者であるとかなんとか言われ、鎧のような聖衣と呼ばれるモノを身にまとって戦うことを強制してくる。兵器として人を殺せなどと言われて反発しないわけがない。
聞けば、私はかつて聖域に敵対していた軍神アーレスのクローンであり、双子座の聖衣を制御できる遺伝子を持つ人間だという。そのために生まれてからこのかた、ずっと聖域の監視下に置かれていたというのだ。馬鹿馬鹿しい。
戦うことなど好まなかったが、そう伝えるとスニオン岬に閉じ込められた。
戦意を高めるためだ。
聖域でも穏健派のアイオロスという将校は人道に反すると抗議してくれたが、黄金聖闘士であるとはいえ組織の歯車でしかない彼の意見は握りつぶされた。
私はスニオン岬で幾度も死線をさまよいながら、聖域のシステムと戦い方を叩き込まれていった。
聖域には世界を掌握せんとするための十二体の黄金聖衣が存在するという。
その聖衣の中でも天の称号を持ち、最強を誇るのが双子座聖衣だ。
双子座聖衣はカノンの身体にセットされた次元連結(アナザーディメンション)ユニットを通じ、別次元から無限のエネルギーを供給される。そのため、この聖衣はカノンと私の二人が揃わないと本来の力を発揮しない。
しかし、その力を自由に扱えるようになれば無敵であるともいえた。
ジェミニを支配する者は世界の頂点に立つことが可能となるだろう。
聖域は私を洗脳して他界を制し、都合の良い駒として扱おうとしたのだ。
しかし、まだ聖域は知らなかった。
ジェミニには恐るべきプロジェクトがプログラムされていることを。
それは双子座聖衣を纏うものを冥王とせんとする、冥王計画であった。
(自分が自分でなくなる気がする…)
聖衣性能のサンプリングをとる為に追いやられた戦場で、私は慄いた。
この高揚は戦意を人為的に高められたせいだけではない。とにかく目の前にいる敵を血の海に沈めるのが楽しくて仕方がないのだ。
聖衣を通じて、カノンからエネルギーが溢れんばかりに伝わってくる。
弟と自分が重なる一体感に、高揚を超えて恍惚となる。
「サガ…?」
その様子を心配したアイオロスが声をかけてきたが無視して、現れた敵を一閃した。
余波で逃げ遅れた市民が吹き飛んだが気にしない。
敵が雑魚に気をとられて動きを鈍らせれば好都合というもの。
「ククク…アハハハハ!!」
楽しかった。聖衣を着るのは初めてだが、確かに自分はこれを装着したことがある。
戦場にいる全ての存在が動きを止めるまで殺戮を堪能し、ものはついでと敵基地の病棟を破壊しようと手を振りかざしたとき、その手首をアイオロスが掴んだ。
「もうやめるんだ。君は誰だ…サガではないな」
眉をひそめた射手座の男へ、私は口元を歪めて答えた。
「ああ、私はアーレス。お前たちは私を必要としたのだろう?」
そう、すべてはアーレス…私が仕組んだこと。
十二体の黄金聖衣を作成したのは、サガのオリジナルであるこの私。
私は最強の聖衣を自分とカノンしか扱えないようにブラックボックス化した。
そして、自分達が殺された場合に備えてクローンを作り、分身が洗脳行為を受けた場合でも聖衣をまとえば本来の記憶と人格が再インストールされるようにプログラムを組んだのだ。
「サガを返せ」
手首を掴んだまま睨むアイオロスを、私は鼻で笑った。
「アレは私だ…いいや、アレだけではない。お前達もまた私で作られている」
「何だと!?」
警戒心をあらわにしている射手座の手を、あえて振り払わずそのままにさせた。
笑ったまま教えてやる。
「黄金聖衣を着用できる人間…黄金聖闘士は全て私の遺伝子で作った。冥界や海界にも私の遺伝子を撒いてある。たとえ戦いがあってサガが死に、誰が残ろうとそれもまたおそらく私だろう。世界の覇権は私が握る。聖域は私を利用しようとしたが、結局最後に笑うのは私なのだ」
アイオロスは流石に驚いたようで息を呑んだ。
「聖域としては私とカノンのクローンを記憶再構築前に手に入れて調教すれば、どうにでもなると踏んでいたのだろうな…その事が私を復活させるとも知らず」
サガをほおって置けば、私は眠ったままだった。
私を目覚めさせたのは聖域の自業自得。
だから、私は聖域を滅ぼすことに後ろめたさなど覚えない。
「サガは、どうなる」
ギリ、と掴む手に力がこめられた。こうなってもこの男はまだサガの事が気になるらしい。
「私がサガだ」
もう一人の私のようにニコリと笑うと、彼は視線を反らせた。
アイオロスは嫌いではない。
「今の私は機嫌が良い。お前が望むならば、聖域の目論見どおり、黄金聖闘士として他界を制圧してやっても良いが」
そう言ってやったのに、彼は悲しそうにため息をついただけだった。
「違う。聖域は…女神は本当はそんなことは望んでいないよ」
どう違うのか知らぬが、私を望まないというのであれば勝手にやるだけだ。
「ならば、私はカノンと行く。世界が塗り替えられていくのを黙って見ているが良い」
胸の奥で何かが軋んだが、どうでも良かった。
手始めに十二宮を破壊するために、私は聖域へ飛んだ。
2007/5/20
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