アクマイザー

JUNK2006-2007


◆たまご

「お邪魔しま〜す!」

元気な挨拶とともに双児宮に駆け込んできたのは、青銅聖闘士の星矢だった。片手には編みカゴを下げ、その中には卵がこんもりと入っている。
テーブルについていたサガとカノンは、朝食の手を止めて若い侵入者の方を見た。
今日のサガは黒髪だったが、星矢は気にも留めず近寄ると、そのカゴをテーブルの脇へ置いた。

「いやあ、十二宮へ行くと言ったら姉さんが持ってけって言うからさ」

星矢の姉は聖戦後もロドリオ村で暮らしている。聖域に近いその村は信仰心の篤い者が多く、身寄りのない姉弟にとっては、日本に戻るよりも生活していくのに向いていた。
ロドリオ村の人間は、聖域への敬意と親近感からよく野菜や果物などの生産物を差し入れてくれるが、星華の場合は弟が世話になっている礼という意味合いの方が大きいだろう。

あの勢いで走ってきてよく卵が割れなかったものだ…と妙な感心しているカノンの隣で、黒サガはその卵を1つ指で摘んで手に取った。それはまだ温かく、今朝産んだばかりであるものだと判る。

「懐かしいな。昔はこれでよく小宇宙の鍛錬をさせられた」
珍しく黒サガが述懐したので、星矢は目を丸くした。
「サガでも修行したんだ?」
「鍛えずに聖闘士になる者などおらん」
淡々と答えると、黒サガは星矢の目の前で軽く手の中の卵に小宇宙を集めた。
それは氷河やカミュが冷気を高めているのに似ていたが、彼らの力が物質の運動を抑えるのとは逆に、黒サガは原子に働きかけて卵を熱しているのだった。
「ただ熱すれば良いというわけではない。やみくもに熱しては、レンジに入れた卵と同じで簡単に爆発してしまう。半熟になる温度と凝固状態を確認しながら小宇宙の量を調節する必要があるのだ。殻の内部のたんぱく質を測れるようになれば、人体を視る時にそれを応用出来る」
総合的な小宇宙のコントロールを高めるのに丁度良い方法だったのだろう…そう言いながら小宇宙を込めたのは一瞬で、黒サガはすぐにその卵を星矢のほうに放る。
慌ててそれを受け止めると、それはすっかりゆで卵と化していた。
黒サガは星矢へ椅子を勧めた。

「お前も朝食はまだだろう。食っていくと良い」
「ええっ、いいの?」
ちらりとカノンの方を見ると、仕方ないという顔で肩をすくめたので了承の証だと椅子に腰を下ろす。
黒サガはその間にも卵を手に取り、自分と弟の分も卵を温めた。卓上にはパンとサラダとスープが並ぶだけの質素なメニューだったが、それにゆで卵が追加される。

「茹でてないけど、これゆで卵って言うのかな…それにしても黒サガに手料理作ってもらえるなんて今日はついてる!」

星矢が卵の殻を剥きながら、にこにこ嬉しそうに言うと、テーブルの向かい側でカノンが『ブフォ』と派手な音を立ててスープを噴出した。咳き込みながら「手料理…?」と呟き、黒サガに睨まれている。
成長期の食欲で卓上の朝食をたいらげた星矢は、礼を言うと双児宮を後にした。


その後、星矢が十二宮の先々で黒サガに卵料理を作ってもらったと自慢したために、アイオロスやシュラやデスマスク(彼だけは純粋に『サガに作れるような卵料理などあるのか』という料理上の興味による)がサガの元へ押しかけた。

黒サガは彼らにはレンジ加熱状態を保った卵を持たせたので、各自の宮は殻を剥いた瞬間爆発した卵で大層な被害が出た。

2007/5/9

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