アクマイザー

JUNK2006-2007


◆カノン

「カノン!」

いつもの兄の呼びかけに対して、双子の弟の目がほんの僅かに宙をさまよった。
それは誰にも気づかれぬ程度の微妙な間であったが、半身であるサガはそれに気づいてカノンの顔を覗き込んだ。
「どうした?惚けたような顔をして」
「いや、何でもねえよ…そういや昔はこの名前が嫌いだったと思ってな」
サガは首をかしげた。サガの方は、規範を表わすカノンの名の響きを子供の頃から好きだったからだ。異国の叙事史を意味する自分の名よりも、弟の名のほうが聖域や女神の聖闘士に相応しいとずっと思っていた。なので率直に言った。
「何故だ?私はお前の名前が好きだぞ」
真顔で言う兄にカノンは笑った。
「昔はな…アンタという旋律を模倣して追唱するだけの人間だということを、名前でまで定められているようで嫌だったんだ」
サガは目を丸くして何か言おうとした。しかしカノンはそんな兄に顔を寄せると、ちゅと頬へ口付けてからかうように告げる。
「昔はと言ったろう。今はサガを追うのも気に入っているし…嫌なら兄さんの方がオレを追うようにさせればいいんだしな」
口を開きかけていたサガは言葉を失い、二三度唇を震わせてから何とか返事を返す。
「ば、馬鹿なことをいうな」
カノンはそ知らぬ顔で兄へ畳み掛けていく。
「名前以上に、オレの中身を好きになってくれないか、サガ」


赤くなりながらも逃げようとしない兄を見て、カノンは自分の誑かしの腕について自信を深めたのだった。


2007/4/30

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