アクマイザー

JUNK2006-2007


◆メメント…(遡り聖域叛逆劇)

「このサガ、本当は正義の為に生きたかったのです…」
サガはアテナと黄金聖闘士達の前で胸を貫き、命を絶った。

その数日前。
偽教皇として聖域に君臨するサガの前へ、突然行方不明だった弟カノンが現れた。
『お前によって水牢に閉じ込められた』という弟の言葉に、覚えの無いサガは動揺する。
「それすらも記憶できていないのか」
カノンは苦笑した。
「聖域は兄さんをおかしくする。教皇の地位なんぞ捨てて、オレとこないか?」
けれども、その誘いをサガは断った。
「友を殺してまで手に入れた場所を、女神が戻るまでは守らなければならない」
本当は弟と共に、二人で外の世界へ行きたかったけれど。
しかし、反逆者としてのサガが今さら聖域を捨てて、一人逃げることは許されない。
聖域を去っていくカノンは、ひっそりと呟いた。
「女神なんざ、いやしねえよ」


アイオロス追討の命令を下した時、サガの意識は黒い半身が奪っていたため、本来のサガはその時の事をよく覚えていない。
実際にアイオロスを殺したのはシュラであったし、射手座の主を慕っていたシュラに対して、その時の事を詳しく尋ねるのは、傷を抉るようで憚られた。
黒サガはアイオロスの連れ去った女神の行方が判らぬ事を歯がみしていたが、白サガの方はその事に安堵を覚えた。いつかきっと女神は戻ってくる。その時までは、何があろうとこの世界を守り抜こうと、固く誓いを立てていた。


「次期教皇はアイオロスとする」
てっきりサガが教皇となるとばかり思っていたアイオロスは、素で驚いた。女神の降臨されて間もない聖域を、自分がまとめていくだけの力があるだろうかとシオンの顔を見る。
シオンは双子座や従者たちを下がらせると、さらに奥の間へアイオロスを連れて行った。強大な小宇宙で、何重にも部屋の周囲へと結界を敷く。完全に外部と遮断されたのを確認してから、彼はアイオロスに命じた。
「教皇となるお前に、最後の勅命を下す。聖域を出て、この世界のどこかに降臨されている筈の女神を探し出し、お連れするように」
まだ若い射手座の主は首をひねる。
「女神ならば、神殿の奥におわすのでは…?」
シオンは仮面の下で、とても苦い顔をした。
「あれは、替え玉の赤子…聖戦が近くなった今、聖域は女神なしに持たぬ。敵には女神の存在をもって牽制とし、黄金聖闘士にすら真実を知らせることなく、士気を保たねばならない」
「しかし、目的を隠したまま、次期教皇となる私が長期にわたって聖域を離れるのは難しいかと。それに、小手先の誤魔化しでは黄金聖闘士の皆までを欺き続けるのは無理です」
アイオロスによる当然の反駁に、シオンは深い溜息をついた。
「…策はもう考えてある」


次期教皇選定の少し前、サガはシオンに呼び出されていた。
シオンはサガに頭を下げた。
「聖域の為に、犠牲になって欲しい」
サガは内容も聞かず、笑って即答した。
「この身が役に立つのであれば、いかようにも」
年老いた教皇は、サガに計画のあらましを話した。
「儂は、今からお前に幻朧魔皇拳をかける。お前は反逆者として生きることとなるだろう。女神とアイオロスに刃を向けたと思い込みながら、聖域をその能力の全霊をかけて保持することになろう。そして、いつの日か見出された女神によってお前は討たれ、戻ったアイオロスがお前の守った聖域を継ぐ。そのために、お前は大切なものを全て切り捨てねばならない」
それでもサガは笑っていた。
「お戻りになられた女神を、私の血などで汚すことはありますまい…その時が来れば、私は自分で命を絶ちます」
シオンは仮面をとると、目の前で跪いているサガの額へと、祝福のキスを落とした。
「侘びにもならぬが、お前には儂の命をやろう。先に冥府で待っている」

シオンの指先に小宇宙が集まっていく。
三人の命を懸けた詐欺舞台の幕が、切って落とされようとしていた。

2007/2/28

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