アクマイザー

JUNK2006-2007


◆制圧者

「サガ、そろそろ朝練の時間だが」
シュラは寝台に眠る双子座の主を見下ろし、そっと声をかけた。

黒サガが麿羯宮へ押しかけて酒肴を楽しみ、そのまま泊り込むのは良くあることだ。
だが、大抵翌朝にはいつものサガに戻り、誰よりも早起きをして従者とともに食事の用意などをしてくれるのが常である。
ましてや、今日のように早朝から候補生達の指導をする日には、サガはまだ暗いうちから床を離れ、陽の昇る前に準備を整え終えているのだった。自分も早起きの方だとシュラは思っているのだが、彼ほどではない。
そのサガが、未だ寝台の中にいる。自分という他人が傍に居るのに、他者の気配に敏感なサガが眠ったままというのも解せない。具合でも悪いのかとシュラは心配になってまた声をかけた。
「…サガ?」
寝息を確かめようとシュラが屈み、顔を近づけた途端、白い両腕がスッと伸ばされ、シュラの首へとまわされる。
「今日の指導はサボらせてもらうことにする…本日の当番にはアイオロスもいる、問題はあるまい」
柔らかいながら、はっきりとしたサガの口調は、隣室の従者へ向けて告げられたものなのだろう。よくできた麿羯宮の従僕が、サガの欠席を伝えに去っっていく気配がした。
決まりごとには厳しい筈のサガの言葉に、シュラは驚いてまず髪の色を確認してしまう。
黒くはない。
サガはシュラの目の動きに気づくと、薄く笑みを浮かべて首から手を離し、顔を見上げた。聖なる雰囲気を帯びながら、その表情はどこか蠱惑的で、獲物を狩る肉食獣の獰猛さがある。
カノンとも白サガとも決定的に違うそのアンバランスさに、シュラは『ああ』と言葉を吐いた。
「今日は統合しているのですね、サガ」
応えは無かったが、間違いは無さそうだ。
サガは白い人格と黒い人格の統合により、戦闘時には安定し強大な力を発揮する。が、その統合配分によって性格にはかなりのばらつきが出るのだった。今日は随分と黒サガの割合が多そうだ。
「指導に行かないのであれば、朝食にしますか?」
「いや…もう少しここでお前に触れていたい」
無遠慮に手を伸ばし、シュラの髪に触れる。黒サガの奔放さには慣れているシュラなのだが、白サガの面差しでそのようにされる事にはまだ躊躇があり、山羊座はらしくもなく身を固くした。
黒サガはすっかりシュラを自分の所有物として認識しており、その意識が今のサガにも反映されているのだろう。シュラが隙を見せたのをいいことに、簡単に寝台の上へと彼を引き上げる。
「そのように警戒するほど、お前にとって、私は危険か?」
天使のような笑顔で黒サガの強引さを見せる目の前のサガに、不器用なシュラは本気で困っていた。
からかわれているのだろう事は判っている。いつものように、多分何事もない。
それでも、いつのまにか体勢が逆転し、押さえつけられながら名前を呼ばれると、ゾクリと背を這い上がるものがある。

シュラはサガに弱い自分を再認識すると、小さく苦笑した。
「危険です…と答えたら、貴方は喜ぶのだろうか」
そして山羊座の男は、自分の上に煌く王の瞳から逃れるように目を伏せた。


2007/1/20

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