アクマイザー

JUNK2006-2007


◆幸福の予約

「なあ…俺と家族になってくれないか?」
星矢は真っ赤になりながら、目の前のサガに小さなビロード張りの小箱を差し出した。指輪のケースだ。驚いたサガは星矢とそれを交互に見つめる。目の前の少年の顔はこれ以上はなく真剣で、冗談のようには思われなかった。
教皇の間の執務机を挟んで、サガは星矢に確認をした。
「ええと…それは君の姉さん…星華さんといったか?彼女と結婚して欲しいということだろうか」
「違うよ!どんなボケだよそれは!」
星矢はむぅと膨れながらその箱を開ける。サガはつられるように覗き込んだ。しかし、そこにあるべき指輪は何も無い。どういう事だろうと首をかしげているサガへ、星矢は恥ずかしそうにうつむきながらも、しっかりとした口調で伝えた。
「俺はただの青銅だから…お金とか無くて、今は箱しか買えなかったんだ。だけど、将来絶対にサガに相応しい指輪を買って見せるから…受け取って欲しい」
子供だとばかり思っていた星矢の瞳には強い決意が秘められていて、サガは一瞬息を飲む。自分は28歳で、星矢は13歳。自分は大人なのだから、少年が道を踏み外しそうな時には正すべきなのだろう。だが、何故か一笑に付すことは出来なかった。
こんな風に強く純粋に想われて、靡かない者がいるだろうか。

サガは星矢に向かって左手を差し出した。形良く整えられた爪先が僅かに震える。
「星矢、私に嵌めてくれないか?お前が買ってくれる、その未来の指輪を」
青年の手を捉え、星矢は確かに薬指へと指輪を嵌めたのだった。
「予約、したからな」
星矢は大人の逡巡など押し流す笑顔で、サガの首を抱きしめた。


「兄さん、なに薬指を見てニヤニヤしてんだよ」
職務の合間に左手に何度となく視線を落としては目元を緩めるサガを見咎め、カノンが流石に突っ込みを入れた。サガは慌てて顔と気持ちを引き締めたものの、胸の奥から幸福感が溢れてくるのを止めることは出来なかった。
「ふふ、これは馬鹿には見えない指輪なのだ」
「はあ?指輪?」
訳がわからず呆れた顔をしている弟を尻目に、サガは窓の光に自分の手をかざす。
指の合間から差し込む光のまぶしさに目を細めて、彼は微笑んだ。
翼を持つペガサスは、きっと自分の元を去っていく。そう思ってしまう自分は星矢を信じていないのかもしれない。それでももしかしたら。こんな私でも光を願って良いのだろうか。
裸の王様でも良かった。星矢は確かに希望をくれたのだった。

(星矢が大人になって分別を持ち、私などから離れて飛び去って行くその日までは…嵌めていても構わないだろう?)

そうしてサガは今日も教皇補佐の仕事に励むのだった。

2006/12/2

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