アクマイザー

JUNK2006-2007


◆神の絵筆

「ハーデス様。何故、こたびの依代ではタナトスばかり優遇なさるのですか」
アローンの身体に降臨した冥王の居室へ、憤懣やるかたないといった様子のヒュプノスが押し込んできた。ヒュプノスは慎重参謀系ジャンルに分類されるような温和タイプで、このように抗議などしてくる事は大変珍しい。
冥王はといえば傍らに輝火を控えさせ、常のごとくキャンバスへ絵筆を走らせている。
不躾な闖入にベヌウの冥闘士は何か言いたげな表情をしていたが、相手が格上の存在である神であることを慮り、冥王の判断を仰ぐことにしたようだ。
「何事かと思えば…私はそなた達へ違わぬ信頼をおき、共に重用している。寵愛に差などつけてはおらぬ」
対応するのも馬鹿馬鹿しいといった風情で筆を止めないハーデスに、ヒュプノスはきっぱりと反論した。
「いいえ、ハーデス様はタナトスの管轄となる力ばかりをお使いです。死は救い…確かにそうではありますが、私の司る眠りとて人に救いを与えると自負しております」
「それは判っておるが…」
「ならばその絵筆に、私の力も篭めて頂きたい」
「…」
そんな事かと呆れているハーデスを尻目に、眠りの神はアローン所持の絵筆に片端から自分の印を篭めていく。止める間もない。
全ての絵筆に力を与え、漸くヒュプノスは満足そうな顔をした。
「これで、ハーデス様の描かれる対象が全て眠りの淵に」
「…眠らせてどうするのだ」
「生け捕りにできます」
「…さようか」
これは何を言っても無駄かと、冥王が遠い目になっている。
ひととおり絵筆に力を付与して満足したヒュプノスは『絶対に使ってください』と念を押して去っていった。

仕方なく冥王は、溜息をつくように傍らの輝火に告げる。
「もしも我が軍に不眠症の者がでたならば、ここへ連れて来るように」

2006/11/06

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