アクマイザー

一日目


お前の修行地を見てみたい。
そう彼の人が言い出したので、拒む理由もなくピレネー山脈へと連れ出した。西部はなだらかな山あいが続くが、東に進むにつれて険しい山岳が空に迫る。
もっとも、スターヒルでさえ軽々と登る彼の人…サガにとっては、この程度の急斜も足の負担にはならないだろう。無論、俺にとっても。
この辺りは俺の庭のようなものだ。目を瞑っていても進むことが出来る。切り立った岩場に慣れている自分だからこそ、かつてアイオロス相手に、あの危険な岩山の合間を追い抜くことが出来たのだ。
長い間放置され、草生した小屋へとサガを案内すると、埃も気にせず彼は椅子へ腰を下ろした。その椅子も折れそうなほど古びていて、前もって新しいものを用意しておくのだったと頭の隅で少しだけ悔やむ。
人里遠くはなれたその小屋は、昔と変わらずしんと静まりかえっていた。

星を見たい。
次にサガはそんな事を言い出した。
ならばスターヒルへ戻りましょうかと問うと、この地で星を見たいのだと言う。
高地ピレネーで見る星空もそれは絶品だ。あの星の海は、確かに彼へ見せたい。
ならば夜まで過ごすこの小屋を片付けねばと思い、俺は彼を座らせたまま、部屋の中を整え始めた。
元々何もない部屋のこと、掃除は楽だった。サガは手伝うでもなく、じっと物思いにふけっている。
簡単に綺麗になってしまったため、持て余した時間で小屋の修繕をした。残されていた生活用具で、椅子まで作る事が出来た(厚板に脚をつけただけの簡単な椅子だが)。
サガに新しい椅子を勧めると、彼は当然のように腰を移した。

夜になって見上げた空は、天蓋一面の輝きを見せ、星読みの得意なサガは目をきらきらさせていた。
闇をうつしたようなサガの黒髪が、星明りの元で静かに揺れている。
ずっと寡黙だったサガが、ようやく声を発した。
「此処で暮らしたい」
目を丸くしている俺に、黒サガはもう1度声を発した。
「手伝ってくれるな、シュラ?」

それは脱走罪になるのではないかとか、拒否権は無いのかとか、いろんな想いが脳裏を駆け巡ったが、俺に出来たのは『判りました』と返事をすることだけだった。

(2009/5/9)


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