アクマイザー

甘い棘


シュラが任務帰りに双児宮へ立ち寄ると、そこには馴染みの気配とともに、ペガサスの小宇宙があった。星矢がよく遊びに来ることは知っているので、気にせず足を踏み入れる。居住区へ入り込み、視認で部屋の中を確認できる位置まで来ると、そこには寝相悪く昼寝をしている星矢と、その星矢へ膝枕をしてやっている黒サガがいた。

「何をしているのですか」

シュラが思わず問う。それに対し、黒サガは人差し指を口元に当て、静かにというジェスチャーを返した。動作だけ見れば、もう一人のサガが子供達の面倒をみるときによくする仕草だ。

(アレが…もう一人の私が、星矢に膝をかしたようでな。困った)

声は出されることなく、小宇宙通信で返される。
白サガと星矢は仲が良い。二人でシェスタでもしていたのだろう。片割れが眠ったことによって出てきた黒サガが気づいてみれば、己の膝を星矢が占領していたというわけだ。
困ったと言いながらも星矢へ向ける黒サガの視線はとても穏やかで、シュラはなんとなく複雑な気分になった。白い方のサガであればともかく、黒い方のサガがそのような表情を見せる相手はそういない。

(それでは、当分そこから動けないのですね)

シュラは近づいて行って、ソファーへ座る黒髪のサガを見下ろした。
何事かと見上げてくるサガの唇へ、軽いながらもしっかりと啄ばむようなキスを落とす。
「……シュラ!」
(大声を上げると、星矢が起きますよ)

不意を衝かれて抗議の声を上げようとした黒サガへ、シュラは顔色も変えずに答え、くるりと背を向けて部屋を後にした。


「何をやっているのだ俺は」

彼の想い人が追ってくる確率はかなり低いだろうなと思いつつ、シュラは自分の意外な大人げなさを自覚して、双児宮の外で大きく溜息をついた。

(2008/7/17)


〜M様に頂いた拍手コメントより発生したオマケ〜

「…と、このような事があったのだが」

黒サガが説明を終えた。
説明すると言っても相手は彼の半身である白サガだ。傍から見ると独り言をいう怪しい青年にしかみえないが、幸いな事にここは彼の私室であり、いかようにも呟き放題である。 
サガの半身である黒い意識が、もう半身である白の意識へ相談をするなどということは、10年に1度もない大事件だった。それを判っている白サガは真面目に相手をしてやっている。

『シュラが突然やってきて、唇を奪ってモノも言わず去っていったのだな』
白い方の意識が状況を整理する。脳内会議というやつだ。
「何か怒っていたようにも思うのだが、原因が思い当たらん」
『シュラの行動の意味を知りたい…と、そういうことか』
「ああ」

三人寄れば文殊の智恵という。二人いれば文殊とまでは行かずとも、何かしら視点が広がっても良さそうなところだが、この二人は所詮同じサガの二人格。からっぽの引き出しから有用な情報を取り出せるわけも無い。
白サガが首を傾げた。

『キスというのは好きな相手にする行為のはず』
「13年間をともにしたシュラが、私を嫌っているはずはなかろう」
『大した自信だな。まあ、ならばそこは問題あるまい』
「確かに、では何故怒っていたかのほうが問題ということか」

二人は揃って恋愛感情には疎かった。

『勅命帰りのようであったゆえ、任務先で怒るような何かがあったのではないか?それで疲れていたとか』
「仕事の八つ当たりをされたのか」
『他に理由が思い当たらぬ』

とりあえず二人は勝手な推論を下し、その推論を元に黒サガは溜息をついた。

「…まあ、疲れていたのであれば1度くらいの八つ当たりは許してやろう」
白サガは目を丸くした。
『珍しいな、お前がいわれの無い不利益を受け入れるなど』
「あの男には世話になったからな」
仏頂面でそう答える黒サガへ、白サガは花の綻ぶような微笑で『そうか』と答えた。

しかし二人の脳内会議が終了しても、シュラの感情は全く正しく理解されておらず、現状なんの解決にもなっていないのだった。

(2008/7/19)

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