アクマイザー

双子誕2010
1.海界祝い(海界勢→カノン)


海将軍筆頭の誕生日祝いをしないか、と言い出したのはイオである。
「は?あんな男のために何故です?」
ソレントが真っ先に辛らつな返事をした。聖戦後に蘇生を果たした海将軍の面々は、シードラゴンが実は双子座の聖闘士でもあり、己の野望のために海界を利用しようとしたことを既に知っている。その後、性根を入れ替えて真摯に働き続ける姿をみて、少しずつ許してはいるものの、微妙な距離はそのままだ。
「それでも海将軍筆頭ではあるし、皆が歩み寄るいい機会なんじゃないかと思って」
イオの言葉にバイアンも頷き、肩を持つ。
「海将軍は一枚岩であるべきだ。過去はともかく、軋轢は無くした方が良いのではないだろうか。対外的にも」
「それはそうですが…」
海将軍内に不協和音があるとなれば、他界につけ込まれやすい。その原因が筆頭ともなれば、必ずそれを利用するものが現れ、海界内での不満の声を大きくするための材料として用いようとし、扇動も行われるだろう。
「そういった難しい話はともかく、戦後の復興については、何だかんだ言ってあの男の世話になっているのだから、祝いのひとことくらいは良かろう」
クリシュナが言うと、微妙ながら横からテティスも同意する。
「そうですよね。復興することになった原因もシードラゴン様ですけどね…」
するとそのとき、潮が満ちるように、ポセイドンの意思が響き渡った。
『祝ってやればよい。ただし、あの男は大罪人。公費を割くことはまかりならぬ』
突然のポセイドンの降臨に、皆は驚きながらもその場に膝をつく。
こういった場面に慣れているソレントが、皆を代表して疑問を口にした。
「恐れながら、ポセイドン様は海龍をお認めにはなっておられぬと言うことでしょうか」
『資格と能力のないものを筆頭にすえたりはせぬ』
ソレントは無意識に安堵の息を漏らした。ソレントだけではない、海将軍たちは一様にほっとした顔を見せている。カノンに反発しながらも、ポセイドンが彼を大罪人呼ばわりした事で、もうシードラゴンとは認めていないのではないかと、不安が先立ったのだ。
「では、個人的に祝う分には問題がないということで宜しいでしょうか」
カーサが問うと、ポセイドンは『好きにするが良い』と答えた。

結論が出て皆が解散したあとには、ポセイドンとソレントだけがその場に残った。
「あの人を海龍とお認めになっているのに、公費を許さないと言うのは、どうしてなのでしょうか」
ポセイドンはといえば、話しやすいようにだろう、何時の間にかジュリアンの似姿をとって、面白そうにソレントを見つめ返している。
『関係回復のためならば、個人的に祝われた方が良かろう。それに、公行事として祝うと批判も出る。海将軍の中にはまだまだ複雑な者もあろうからな』
ソレントは顔を赤くして横を向いた。暗に自分のことを言われたと感じたのだ。
「しかし、公の立場で祝う事は、海龍に対してポセイドン様の許しが出ている事を、広く知らしめる格好のパフォーマンスにもなります」
『それについては、私の名で贈り物を出せば、同等の効果を得られよう』
ポセイドンは暖かい声で海魔女を諭した。
『なにより、そのようなことで公費を無駄にすることを、海龍自身が嫌う』
「それは…まあ、確かに…」
行事とした場合、式典や格式なども整えねばならず、時間やお金も相当必要となるだろう。復興作業は今も現在進行中で、忙しい日々が続いている。そのようなときに、生誕祝いの準備に時間と金を割くのは、確かに反発を招きやすく、なにより祝われる本人の不興をかう可能性が高い。
『ただ、無駄でなければ私もあの男も費用は惜しまぬ。実行した場合にかかる経費を算出し、その金額は水害で被害にあった地域へ寄付としてまわしてやるが良い』
「…そうですね。」
押し黙ったソレントに対し、ジュリアン姿のポセイドンがぽんと頭を撫でる。
ポセイドンが意外なほどにカノンを理解している事に対して、沸き起こった感情は喜びなのか焼餅なのか、ソレントは複雑な気持ちでその場をあとにした。


(2010/5/28)

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