二分割(白黒サガ)
いつものように目覚めたサガは、内面にもうひとりの自分の気配を感じぬことに気づいて、ぱちりと目を瞬かせた。
よくよく意識を集中させてみれば、全く存在が消えたわけではなく、自身の奥底深くに身じろぎもせず沈んでいるようだ。
サガは深層意識のほとりで佇み、それから意をけっしてその中へと降りていった。
本能と呼ばれる原始的感情の源泉近くに、黒サガと呼ばれる半身が横たわっている。
サガはそっと話しかけた。
「何をしているのだ?」
黒のサガは、白のサガの呼びかけに振り向いたが、すぐにフイと視線を逸らす。
「お前こそ何をしに此処へきたのだ」
「お前を呼びに」
間髪いれず返された声を聞いて、黒のサガは苦笑する。
「今日が何の日か知らぬお前ではあるまい」
「誕生日、だろう?わたしの。つまりお前の」
白のサガは黒のサガの隣へと腰を下ろした。
黒サガは相変わらず視線を合わせない。
「女神がわたしとカノンの為に、ささやかながら一席を設けてくれたそうだよ」
「知っている」
最低限の言葉でしか答えようとしない半身に、白のサガも苦笑した。
頑固なところも自分たちは共通している。
手を伸ばして半身の頭をぽふと叩くと、その手は振り払われなかったものの、初めて黒のサガがギロリと睨み返した。
「祝われるのはお前だけであろう。わたしは邪魔にならぬよう此処にいる」
「何だ、拗ねているのか?」
「違う」
「そんな理由であるのならば、わたしは力づくでもお前を連れ出すぞ」
いつになく強引な半身に、黒のサガが目を丸くする。
「何のために」
「お前がわたしだというのなら、祝いも侮蔑も等しく受けるべきだからだ」
白のサガは、半身を撫でていた手を離して腕を掴んだ。
「もっとも本当にお前が望まぬのなら、わたしも行かない。ここで一日お前と過ごす」
「……」
黒のサガは諦めたように小さな溜息を付いた。
対照的に白のサガは微笑んで「Happy Birthday」と囁いた。
(2009/5/30)
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