テオブロミン(タナサガ)
「タナトス、その…これを」
サガが何やら包みを渡してきた。
片手に乗るほどの小さな包みは、綺麗な包装紙で包まれている。
地上の品物なのだろう。
サガが何かを冥府へ持ち込むのは珍しいことだ。
ましてや、神へ捧げ物を用意するなどということは、初めてではなかろうか。
たかが人間の作る品で、神の目に適い、受け取るに相応しい物などはそうない。かろうじて至高の芸術品などが挙げられるが、そのランクのものを、サガ程度の収入で入手出来るとも思えない。
そのため、何を持ってきたのか興味がわき、目の前で包みをあけてみると、中には菓子が入っていた。
サガが遠慮がちに告げる。
「地上では今日、世話になった相手に感謝を表す日なのだ。貴方の口には合わぬかもしれないが」
人間の食うような下卑た物を差し出すなど、不敬と捨て置いても良かった。
おおかたサガの口調からしても、その覚悟はあるのだろう。
タナトスは破り捨てた包装紙を見た。それなりに目にした事のある老舗の菓子ブランドのものだった。こういった方面に疎いサガなりに、気を使って選んだのだと思われる。
「ふん…theo broma(神の食べ物)の名に免じて、貰ってやろう」
そう言うと、サガの顔がぱっと明るくなった。
箱を開けてチョコを1つ摘むと、カカオの苦味と控えめな甘さが口に広がる。
たまには下界の味も悪くないと、珍しくタナトスは思った。
(2009/2/21)
カカオの学名はTheobroma(神の食べ物)
[NEXT]