まるぱん
アスプロスは手元のパンを手にとり、しげしげと眺めた。
毎朝デフテロスが用意する丸パンは球状で、その言葉の通り本当に丸いのだ。
基本的には聖域で食していたものとなんら変わらぬ材料であるはずなのだが、全方面にこんがりとキツネ色に焼けたそれは、火の通りが均一のためか、中はふっくらと柔らかくとても美味い。
「これはお前が焼いたのか?」
デフテロスに尋ねると、弟はこくりと頷いた。
「そういえばどこで調理をしているのだろう。パン用の竈はないようだが…」
粗末な修行用の小屋に、きちんとした台所など付いているわけもなく。
火を必要とするものは、外で薪を燃やして調理しているのだが、そういえばデフテロスは火をおこした様子もない。
はっとアスプロスは気づいた。
「これも溶岩竈か!」
「ああ、パン生地を丸めて…溶岩洞窟の上のほうで浮かせていると焼ける」
小宇宙で溶岩を球として浮かせることのできるデフテロスにとっては、パン生地を浮かせる事など造作もないのだ。
「なるほど、お前特製パンというわけだな。とても美味い」
にこりと微笑んでぱくりとパンを齧ると、デフテロスは嬉しそうに返事をした。
「兄さんがそれを好きなら、今度は出来るだけ巨大サイズで…」
アスプロスが慌てて普通サイズを希望したのは言うまでもない。
(2010/2/21)
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