アクマイザー

相身互い


デフテロスは考え込んでいた。兄とともに生活を始めて同じ布団で眠るようになり、幸せ絶頂であるはずなのに、このところ寝苦しい夜が続いているのだ。
物理的に暑苦しいというわけではない。一組しかない布団は粗末で夜は冷え、互いの体温が丁度よい防寒対策になっている。ふと触れる兄の肌は戦士にしてはなめらかできめ細かく、間近での呼吸がときおり感じられてくすぐったい。
ここまで考えて、デフテロスは自分の心拍数があがっている事に気づいた。顔が火照り、何故かとても落ち着かない。
(これは一体どういうことだ)
眉間にしわを寄せていると、突然後ろから声がかかった。
「どうしたのだ、デフテロス」
アスプロスの声だ。びくりと振り返ると、アスプロスが真っ直ぐに、しかし心配そうな顔をしてこちらを見つめている。自分が兄を背後から見ることには慣れているが、いざ自分が視線を向けられると落ち着かない。そして強く真摯な瞳…わけもわからず胸が苦しくなり、目を逸らす。
逸らしてからはっとした。
(これは、アスプロスが話してくれた状態では…!)
すれ違った過去の心境を語ってくれたアスプロスが、昔はデフテロスの視線が疎ましかったのだと打ち明けてくれた事がある。
(オレは兄さんの視線が疎ましいのか…?無意識下では兄さんと一緒に寝たくなくて拒否反応を起こしているのか…?)
自分が兄を疎んじているかもしれないということが、デフテロスにはショックだった。
黙ってしまったデフテロスに、アスプロスが眉を潜めて首を傾げる。
何か返事をせねばと気は焦っている。しかし、そんな事を兄には言えない。絶対にいえない。自分が情けなく、悲しくなる。アスプロスもかつてはそうだったのだろうか。
(心が落ち着くまで、別場所で眠ったほうがいいのかもしれない)
デフテロスの理性はそう判断を下そうとした。
しかし、瞬時に感情が『いやだ』と叫ぶ。目にじわりと涙が浮かんだ。
驚いてアスプロスが駆け寄ってくる。
「このところあまり寝て居なさそうだったから、心配していたのだ。今日の食事はオレが作るから、お前は少し横になって仮眠を取れ。眠らぬと情緒不安定になるものだからな」
頬を撫でたアスプロスの手の感触は温かく、そしてやはり胸が騒いだ。

アスプロスが夕飯用の狩りに出かけたあと、デフテロスは寝台に寝転がり天井を見上げた。なるほど一人だと平穏なもので、すぐに睡魔が下りてくる。しかし、かわりに何とも言えない物足りなさが生まれていた。
眠りに身を任せながら、やはりアスプロスと一緒がいいと結論付けてデフテロスは布団を被った。

(2010/2/17)


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