アクマイザー

双子鬼


カノン島で暮らす生活は基本的に自給自足であるとはいえ、生活必需品の全てを二人で賄うのは流石に不可能だ。聖域やその近辺の村まで行けば大抵のものは手に入るが、ちょっとした野菜や穀物程度なら、島唯一の小さな村へ足を運ぶのが常道だろう。
しかし、アスプロスは村へ下りる事を少し迷っていた。
その村でデフテロスは鬼扱いされているらしいのだ。ではデフテロスはどうやって買物をしているのかと、前に聞いたことがある。

「お前はいつも卵を村から貰ってきていたな…?」
「ああ、だが俺が行くと鬼が来たと皆逃げてしまうので、金だけ置いて必要分取っている。最近は俺を怖がって鶏が卵を産まなくなってしまったとかで、扉に魔よけの札を貼っている家まである」
「よく判らん。お前のような可愛い鬼などいないと思うのだが」
「…アスプロス」

見つめあうキックオフ状態(※年代限定比喩)は何時もの事だ。
アスプロスは、デフテロスが可愛いのは兄の前でだけだということを良く判っていなかった。

とにかく、その時の会話を思い出してアスプロスは唸る。
(同じ顔の俺もやはり鬼扱いされるのではなかろうか…いや俺のことはともかく、弟への誤解は解きたい。ここで暮らしてゆくのならば尚更)
それは生活の便のためというより、デフテロスへの対応を改めて欲しいと願う兄としての純粋な願いだった。差別と畏怖、形は違えど、昔と同じように人々から忌まれ遠ざけられる弟を見たくないのだ。
正直、アスプロスは村人に腹を立てても居た。
(大体、デフテロスが過去に何度も噴火をセブンセンシズで鎮めてきたからこそ、あの村は無事なのだ。感謝されこそすれ、疎まれる理由などないではないか?)
デフテロスが村を助けたのは修行と住まい確保の都合であって、実際には「役に立たない弱者はこの世から消えるものだ」という割とシビアな主義であることも兄はよく判っていない。
兄は兄で弟に対してぶ厚い色眼鏡をかけていた。

考え込んでいると、デフテロスが心配そうに覗き込んできた。
「どうしたのだアスプロス、何か悩みでもあるのか」
「いやその…ふもとの村人たちのことだが、お前への誤解を何とかしようと思って」
忌憚なく伝えたものの、デフテロスは首を横に振った。
「いや、俺は今のままで良い」
「しかし」
「鬼と思わせておけば、恐れて此処には誰も近付かぬだろう。俺は兄さんとの生活を誰にも邪魔されたくはない」
「デフテロス…」
つい先日修行を志して再チャレンジを目論み、前回以上の勢いで追い払われた白銀聖闘士一同も、まさかそんな理由でだとは思いもしていないだろう。
(デフテロスの気持ちは嬉しいが、やはりこのままではいけない)
アスプロスは弟を説得して、一緒に村へ降りてみる事にした。


その結果、アスプロスの前では鬼が大人しいと理解した村人は、必要以上に二人をくっつけようとしたため、デフテロスは喜んだものの、家内安全+安産のお守りを貰ったアスプロスの方は何となく納得の行かぬまま山へ帰ったのだった。

(2010/2/9)


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