両手に花2
双児宮には様々な人間が訪れるが、アイオロスはその中でも足繁く通う者のひとりだ。
今日も任務帰りにサガを尋ね、その時に背負っていた聖衣箱は双子座の闘衣とともに隣室へと置かれている。
守護宮では良くある日常風景なのだが、サガの宮には闘衣が2つあった。
すなわち、ジェミニの聖衣と冥衣である。
過去の経緯から、ペットの序列を示すケージ位置のごとく、黄金聖衣の方を1段高くして安置されているのだが、そのため、アイオロスが無造作に床へ置いた射手座の聖衣箱はジェミニの冥衣の方と並ぶ事になった。ちなみにジェミニ用の冥衣箱は現在ムウが作成中である。
見知らぬ黄金聖衣が隣へ来たことによって、ジェミニの冥衣は警戒と敵意をあらわにしたが、射手座の聖衣の方はそんな事を気にも留めずに話しかけた。英雄の聖衣と呼ばれる彼は、持ち主の気質に似て大らかなのだ。
「初めまして、噂には聞いていたけれど君が双子座の冥衣か。双子座の聖衣にそっくりだけど、やっぱり大分異なるね」
「……」
「見た目がシャープだし、色気のある感じがする。聖闘士の身体を守ったり、その力を引き出したりするのは、冥闘士相手とは勝手が違って戸惑うんじゃないか?聖闘士と冥闘士じゃ小宇宙の使いかたも違うし。冥衣は着用者の体を守るよりも、冥衣自体のガードを重視することも多いと聞いたんだが」
「…わたしは、サガが初めての装着者ゆえ、他は知らぬ」
「ああ、そうか。だからサガの癖が色濃いのか」
「癖?」
「闘衣は代々の主の魂というか、想いを蓄積する。そうする事によって戦闘経験値も蓄積されていくんだ。君からはまだサガの匂いしかしない」
そう言いながら、射手座の聖衣はジェミニの冥衣に鼻を近づけた(※表現はイメージです)。
しかしその途端に、低く唸るような金属音が響く。
はっと射手座の聖衣が振り返ると、段上の双子座聖衣が不機嫌オーラを滲み出させながら、重低音を発生させていた。
双子座の聖衣は冷たい語調でぼそりと呟いた。
「経験豊富で初々しくもなくて悪かったな」
「え、ええっ?そんな事は言っていないぞ、何の話だ?」
「どうせわたしは色気もなくシャープでもない」
「ちょ、ちょっと待て、何を怒っているんだ」
慌ててフォローを入れようとするも、今度は双子座の冥衣の方が彼を引きとめる。
「人に話しかけておいて、途中でなんだ」
「あ、ああ」
「今はわたしと話しているのだろう」
射手座聖衣が慌てている間にも、双子座聖衣はどんどん拗ねていく。
彼が両手に花状態を楽しめるようになるのは、まだまだ当分先の話になりそうだった。
(2009/9/5)
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