アクマイザー

とばっちり


黒サガが執務へ向かう少し前の双児宮。

「どうした愚弟、今日は海底へ行く日ではなかったのか」
目覚めて以降ずーっと壁の方を向いたまま、ベッドの上で体育座りで膝に顔を埋めているカノンを、流石に気に掛けたのか黒サガが声をかけた。
「…とっくに有給の連絡をとっている」
カノンの声は抑揚が無く、まるで棒読みだ。
「有給など存在したのか?意外なことだ」
「失礼な…聖域よりも海界の方が福利厚生の面では進歩的なんだぞ」
いつもであればピシリと言い返す筈の声にも力が無い。
「その海界の仕事を何故サボる。見たところ身体に異常はないようだが」
黒サガがさらに問いかけると、カノンがキっと振り返った。
「お前の目は節穴か!」
その頭に揺れるのは、人体にあるまじき一対のうさぎ耳。
「このうさ耳が異常でなくて何だ!」
それはロシアンブルーの色合いに似た美しい毛並みで、カノンの銀髪によく似合っていた。
「ああ、海界へ行こうにも兎は泳げんからな、それで休暇か」
「違うわ!そんな問題ではない!お前は何で気にしないんだこの非常事態を!」
カノンは怒鳴ったが、不幸な事にカノンの兄は弟の憤りを1ミクロンも理解していなかった。
「何が気になるのだ。耳のことならば、あの小娘…女神が我々のイメージアップとやらの為に付けただけだ。本人も付けているゆえ、悪気はないのだろう。捨て置けばよい、カノン」
弟の動揺を呆れたように見据える黒サガの頭にも、一対の黒いうさぎ耳。
「オレはお前ほど図々しく出来ていない。こんな姿を海闘士の連中に見られでもしたら…やっと筆頭としての威厳と地位を回復出来てきたというのに」
頭を抱えるカノンの前で、黒サガは耳をゆらゆらさせながら首を捻る。
「海将軍ならば、喜ぶのではないか?お前の弱みを握れて」
黒サガ自体は海将軍に面識が無い。知っているのは、カノンが騙した海界軍の最高位たちであるということ位だ。よって感想も適当だった。
「それが嫌だって言ってるんだよ!ああ、何かソレントが不気味な笑みを浮かべているのが想像出来すぎる…!」
「どんな姿であろうと、お前はお前だろうに」
「恥も外聞も気にしない事を、そんな言葉で誤魔化したくない」
「…ほぉ、まるで私が恥知らずであるかのような言い分だな」
「ようなじゃなくて、その通りだっつってんだよ」
「その耳、リボン結びにしてやろうか愚弟」

ゴゴゴゴ…と千日戦争に発展しそうになった空気を破ったのは、カノンの力ない溜息だった。
黒サガも拍子抜けして、高めていた小宇宙をおさめる。
カノンは耳をすっかり垂らして、毛布のなかへと潜り込んだ。

「…サガ、女神に会ったらオレの耳だけでも元に戻すよう頼んでおいてくれ」
本気でダメージを受けているのだろう。カノンらしくない語調が毛布の中から聞こえてくる。
仕方なく黒サガは弟を慰める事にした。
「カノン、そう落ち込むな」
「…」
「その姿、なかなか似合っているぞ。私と小娘の次にだが」
「……………」

自分の言葉がいっそうカノンにダメージを与えたとも知らず、黒サガは『毛布に包まるのはウサギの習性が前面に出たからか?』などと的外れな事を考えながら、教皇宮へと出かけていったのだった。

(2007/11/18)


[本編へ]


[BACK]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -