アクアマリン
2…海将軍と特例聖闘士
今後の海界運営について話し合う、海将軍会議合間の休憩中。
唐突に零されたイオの一言によって、カノンは危うく飲んでいた珈琲を吹きかけた。
「黄金聖闘士ってみんなお母さんみたいな感じなのかな」
カノン以外の顔ぶれも、イオの発言に注目する。
皆の視線を受けたイオは、少し赤くなりながらも言い訳のように付け足した。
「だってほら、カミュとかサガとか、凄く優しいだろ」
双子座と水瓶座と白鳥座は、海将軍の身内扱いとして海界への自由な出入りを許されている。彼らはポセイドンのお気に入りでもあり、聖闘士としては異例の待遇だ。
彼らは足繁く海界を訪れる。中でもカミュとサガは世話焼きタイプで、年下の者に対して非常に面倒見が良い。気配りもマメで、毎回多めの手土産を用意しては、おすそ分けを誰彼となく振舞っている。相手が海闘士であろうが何だろうが、あまり気にしないタイプのようなのだ。
しかし、面倒見が良く優しいというだけであれば、海闘士の中にもそのようなタイプは大勢いる。いや、海闘士も軍集団のならいとして、基本的に年長者は年下の者の面倒をきちんと見る。
カミュやサガの接し方はそれらとはまた別に、何故か『おかあさん』を彷彿とさせるのだ。
海将軍は来訪中の二人の姿を思い浮かべ、それから爆笑した。
「い、いや、しかしイオ。あの二人がそうだからといって、黄金聖闘士全員がそうだと想像するのは統計学的に間違っている」
「フォローになってないぞバイアン」
「そういうクリシュナとて笑っているくせに」
皆が笑いながら話す中、二人を良く知るカノンとアイザックだけは反論を試みる。
「カミュ…アクエリアスは、身内に対しては厳しくクールだ」
「サガとてそうだ。俺を怒るときなんざ、鬼の形相だぞ」
けれども皆の笑いは収まらない。
ソレントが口を開く。
「そのクールさも厳しさも、貴方がたが深く愛されているがゆえのものだろう?」
それは何時もの毒舌ではなかった。
アイザックは頷き、カノンは気まずそうに視線を彷徨わせた。照れくさいのだ。
会議室に暖かい空気が流れる。聖戦前はどちらかと言えば仲間に対しても冷たい壁のあったカノンとアイザックの二人が、今はこうして血の通った一面をみせてくれる。
それは明らかに彼らの家族との関係修復にも一因しているのだろう。
海将軍たちはサガとカミュを笑ったけれども、それは嘲笑によるものではない。むしろ感謝と親愛の篭るものだった。
特例聖闘士たちは意図せずして、聖闘士に対する海闘士たちの偏見を薄めていた。
和気藹々と茶の進むなか、アイザックがぼそりと言う。
「俺は皆のことも身内だと思っている」
今度は暖かながら、静かな沈黙が訪れる。
その沈黙には、同意と深い信頼が含まれていた。
「さあ、休憩はもう充分だろう。後半の議題に入るぞ」
カノンが少しぶっきらぼうにその沈黙を破り、その様子が『カノンは?』と聞かれる前に先制したつもりなのが見え見えで、海将軍たちはまた一同和やかに大笑いした。
(2009/8/30)
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