ときには人のように(双子神)
「ヒュプノス」
「なんだ、タナトス」
「誕生日おめでとう」
「…………………」
出会い頭に突然祝われて、ヒュプノスは驚く以前にタナトスの精神状態を案じた。
「…タナトスよ、何か拾い食いでもしたのか」
「そのような下賎な真似を神であるオレがするわけなかろう!それに、この場面で言うべきは『お前もおめでとう』ではないのか!」
「お前もおめでとう」
「きちんと心を込めろ!全く、お前が喜ぶはずとサガの奴が勧めるゆえ言ってみたが、何も楽しいことなどないではないか」
その言葉で腑に落ちる。
タナトスが 生誕の祝いを口にしたことなどはかつてない。死の神である彼が生を祝う謂れがないこともあるが、どちらかといえば性格上の理由からだ。
「成る程、あの男が言い出したのか」
「ああ、永劫を生きる神にとって、年に1度程度で生誕日を祝うのは、人間が毎時間ごとに生まれた秒や分を祝うようなものだと説いたのだが。今まできちんとお前を祝った事が無いと話したら、1度は口にしろと煩いのだ」
「珍しいな、お前に対してはあまり差し出がましい口を利かぬあの男が」
「自分も双子だからだろう」
「……成る程」
二回目の相槌を打つ。そう言われてみるとサガらしい。
「人間に言われてというのは気にいらんが、お前に祝われるのは悪くないぞ」
「ならば最初から素直にそう言え」
タナトスはそう言うとヒュプノスの顔を覗き込んだ。
「今日は二人でどこかへ出かけてみないか」
「冥界の復興作業はどうする」
「それこそ1日くらい構わんだろう。オレ達には永劫の時があるのだからな」
楽しそうに手を引くタナトスは、随分と人間に影響されているように見えた。
(これもサガによってもたらされた変化か)
湧き上がるこの感情は不安なのか感謝なのか、神にも判別できぬものだとヒュプノスは心の中でだけ一人ごちた。
(2008/6/13)
[2008EVENT]