2007ハロウィン(双子)
オレの兄さんはフリーダムな奴なので、相手の見た目や属性は気にしない。老若男女かまわず、美醜とわず、年齢拘らず…よく言えば博愛者だ。
兄さんがいろんな人に慈愛を振りまくもんだから、いろんな人がサガの信奉者になる。そんな兄さんが自慢ではあるが、ちょっとは八方美人抑えろと言いたくもなる。別にサガは相手に気に入られたくて愛想を見せてるわけじゃないがな。判ってるんだが、どうしてもムカつく。
大体サガにだってオレと同じ悪の心があるはずなんだ。上手く隠したって双子のオレには判る。隠す必要ないだろ。それを知って離れていく奴なんてほっとけばいい。欲しいものは力で奪え。オレ達にはそれだけの実力はあるんだから、好き勝手やる権利あるだろ。世の中、弱肉強食だ。
「ただいま、カノン」
気に食わないから、帰って来たサガの挨拶もわざと無視する。寝転がったソファーから起き上がりもせず、雑誌に目を通すフリをする。知らんふりしていたら、サガが近寄ってきた。
「カノン、雑誌が逆だ」
そんなところだけ目ざとく気づくんじゃねえ。
上下逆になっていた雑誌を持ち替えて、それでもオレは返事をしない。サガは困ったような顔をして、サイドテーブルへお菓子を置いた。また村人あたりからの貰いものか。それはお前が貰ったものでオレにじゃないだろう。サガは何かを貰っても決して一人では食べようとせずに持って帰ってくる。それがまたムカつく。そんなことをして貰わなくたって、オレは勝手にそのへんで盗んでくるってのに。
しかしサガはオレが盗みをすると怒る。どうせバレないんだから怒る事ないと思うのに怒る。品行方正をオレに求められても迷惑だ。
まだサガが隣にいる。何か話しかけたそうな顔をしている。何だってんだ。
「今日はハロウィンなのだ」
はいはい、だから何だよ。ギリシアでは関係ねえだろ。
「お菓子、渡したからな。他所で悪戯してくるのは許さんぞ」
「…はあ?」
オレらしからぬ間抜けな声を出してしまった。何の関係があるのだ…と言いかけて思い出す。ああ、菓子を渡されると悪戯が出来なくなるんだっけ?イベントにかこつけてまで、オレの悪行を止めたいってわけか。
呆れて返事もせずに、フイと視線を外して雑誌に目をやったら、その雑誌を取り上げられた。
「何しやが…!」
起き上がって怒りかけたオレの鼻先を、サガがかぷりと噛んだ。
呆気にとられて、動きが止まる。
「私はお前から菓子を貰っていない。だから悪戯しても良いだろう?」
にこりと笑ってサガが言う。オイオイどんな理屈だそれは。
サガはフリーダムな奴なので、相手が弟でも気にしない。そうして万人を蕩かす笑顔を向ける。
そんな兄が好きな自分に気づいて、オレはまた舌打ちをする。
(2007/10/31)
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