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消えたと聞いていたやよいさんに会えた僕は、何処かで安堵と共に喜びを抱いたいた。
やよいさんに初めて会って会話したのは今から三年前の入学式の頃。
おそらく彼女はあの時のことを覚えてはいないだろう。
けれど、僕にとっては今でも忘れられることがない思い出になっている。
『これ落としたよ』
ただでさえ影が薄いと言われる僕を初対面で見つけていつの間にか落としたハンカチを渡してくれたあの瞬間、僕は恋に落ちたのかもしれない。
確かに、入部当初は目の前を通ったりしても彼女の視界に僕が映ることはなかった。
それでも青峰君と桃井さんが彼女に僕を紹介してくれてからは時々見つけてくれるようなった。
でも、一つだけ僕の中では予想外のことが彼女には起きていた。
『へぇ、黒子くんね』
それは何と言っても部活内などでの好き嫌いのようなものだ。
平部員の中にも仲がいいのか笑い合いながら話す人もいれば、そこに嫌いな部員が入ってきたら地味に顔を引き攣らせて後ろへ下がる。
特にキセキの話しかければその態度は酷かった。
気付かれないぐらいで白けた目で彼らを見ては軽くあしらうような態度を取り、さり気なく誰かに彼らを擦り付けては消える。
だからこそ、僕はキセキの皆さんよりは嫌われてなかったと思う。
僕が話しかけてもそこまで嫌な顔はしないし、誰かに擦り付けられることも無かった。
まぁ、逃げられたりはしましたが。
「……はぁ」
思わず色々と考えていると漏れた溜め息。
隣の火神くんが僕の頭の上に手を乗せて首を傾ける。
「……どうかしたのか?」
「いえ、なんでもないですよ」
僕はそれだけ告げると黄瀬くんが座る席へと移動した。
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