繋がる縁
一度目は、夢の跡地の黄昏時。
そこで色違いのムシャーナに遭遇し、青い靄に誘われて夢か現かわからないまま不思議な世界へ迷い込んだ。

二度目は、ホウエンの海が見える104番道路。
魔人のような不思議なポケモンが生み出した輪っかに落っこちて、もう二度と訪れることができないはずの世界へと迷い込んだ。


二度あることは三度ある――という言葉がカントーやジョウトでは、ことわざとして浸透している。
だからなんとなく、ミスミもひょっとしたら次も会えるかもな、と心のどこかで"その時"が来るのを待っていた。
いつになるかわからない。
ひょっとしたら、次に会ったときは彼女とは違う人物が英雄となっている世界かもしれない。

それでも――。





次はどうやって会うんだろうなあ。


そんな風にふいに思ったのも、ミスミが滞在していた地方の名の由来を偶然知ったことがきっかけだった。

"ホウエン"とは、ポケモンと人、人と人の縁が豊かな場所、豊かな縁がある所など――つまり『豊縁』と書く。

ポケモンセンターのロビーに設置されていたテレビに映っているのは歴史モノの番組で、ホウエンの名前について解説されている。
預けたポケモンの回復を待つ間ボーっとそれを眺めていたミスミは、今し方聞いたフレーズである『豊かな縁』を頭の中で繰り返す。

CMに入ったところで、何気なくロビーから庭へと通じる掃き出し窓に目をやった。
ウッドテラスは照明器具がいらないほど燦々と明るく、みずポケモン用のプールから飛び出す水飛沫が大きな光の粒となって宙を舞っていた。
清々しいというにはカラリとしすぎるほど眩しい青空が広がっている。
ポケモンたちの回復が終われば、海辺に出て昼寝でもしようか。
上着は脱いで、それを枕代わりにするのもいいが、こう暑いとタージャのひんやりとした身体にもたれかかる方がいいかもしれない。
高確率で問答無用に叩き落されそうだが。

容易に想像できたイメージにひとしれず半笑いを浮かべたミスミは、窓からテレビへと再び視線を戻す。
自然豊かなホウエンの映像には、いくつか覚えのある場所も見受けられた。

煙突山のふもとにあるフエンの温泉。
隕石が落ちたと言われるりゅうせいの滝。
113番道路の火山灰が降る道。
慰霊スポットとしても有名なおくりび山。
ポケモンの進化に関わる苔むした大きな岩があるという、トウカの森。

イッシュ同様、この地方でも様々な縁を結んだ。
道中で目が合い、バトルに発展したトレーナーに始まり、各町のジムリーダー、見たことのないポケモンたち、そして。

――――あの日、偶然出会った魔人のようなポケモンと、そのポケモンによって再会を果たした、彼女。

特別信仰深い方ではなかったが、言われてみれば不思議な縁を結んだものだ。
ミスミが半ば感心していると、ロビー全体に回復終了のメロディーと共に預けていたポケモンのトレーナーの名前を呼ぶアナウンスが流れてきた。
アナウンスで呼ばれた数名のトレーナーの中に自分の名前があることを確認したミスミは、立ち上がって受付カウンターまで歩き出した。
ちょうどそのとき、テレビ内ではここ最近ホウエン地方で魔人のようなポケモンの目撃情報が相次いでいることを知らせるニュースが入ったのだが、タイミング悪く、ミスミがそれを見ることはなかった。
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