おつかい!
メイたちが先にポケモンセンターの前で2匹を待っていると、町に設置されている時計が夕刻を告げるベルを響かせた。
ちょうど、そのときだった。
最初に気が付いたのはフタチマルで「フタチ!」と、12番道路側の通り道に向かって声を上げたのを皮切りにメイたちが一斉にそちらを見る。


「ブイ〜〜っ!」

「ロアっ。」


「イーブイ!ゾロア!おかえりなさいっ!」


大きく手を振るメイたちの元へ、イーブイとメイに化けたままのゾロアが駆け付けてくる。
両手を広げたメイの腕の中へ、走ってきた勢いのままジャンプしたイーブイが迷いなく飛び込んだ。


「どうだった?ちゃんとおつかい出来た?」

「ブイブイ!」

「ロアっ。」


えへん!と胸を張るイーブイと、珍しくメイの目を見て頷くゾロア。
荷物を持たなければいけない関係でイリュージョンをしたままだった姿を、荷物を地面にいったん置くことで元に戻り、ゾロアは再びメイを見上げて「ゾロっ」と鳴いた。

フタチマルは、おや?と首を傾ぐ。
お店を出たときよりも2匹とも、やや毛が乱れており、汚れも目立つ。
そのことをデンリュウに耳打ちすると、彼女は「デーンリュー」と、きっと帰り道でも寄り道したんでしょうねーと、のほほんと笑っていた。


「エアァ!ムドーッ!」

「ブイブイ〜!」

「ローア……っ。」


がんばった2匹を鋼鉄の翼でわしゃわしゃと撫で繰り回し、より一層毛を乱すエアームドの豪快な賛美にイーブイとゾロアはくすぐったいを通り越した鳴き声を上げて、けれど、笑っていた。

ゾロアが置いた紙袋の中に入っているトマトと、スイーツ店の可愛らしいパッケージを見て、メイはフタチマルとデンリュウと顔を見合わせて頷き合った。
ちゃんと形も崩れていない。上出来だ。


「イーブイ、ゾロア。」


メイが名前を呼ぶと、エアームドからようやく解放されたイーブイとゾロアはハッとして座り直し、同時に尻尾を振ってメイを見上げた。
そんな2匹の、とても誇らしげな顔が――その喜びに満ちた思いに至るプロセスを知っているメイたちは嬉しくてたまらなかった。


「イーブイ、ちゃんとトマトもポフレも買ってこれたね。
これ、おまけまでしてもらえたの?ふたりがお利口でいいコにしてたから、ご褒美もらえたのねー。やったね、よしよしーっ。」

「ブイブイ〜!」


本来のおつかいの原因はつまみ食いによるお仕置きのつもりだったのだが、今はもう2匹がちゃんとおつかいを済ませて帰ってきたこと。
そして、イーブイとゾロアが本当にがんばったため、メイにとってはどうでもいいことだった。

メイに顔周りと首元を両手でこするように撫でられて、イーブイは甲高い鳴き声を上げて、もっと撫でてと甘える。


「ゾロアもイーブイのサポート役、ご苦労様!
ごめんね、わたしがお店の場所ちゃんと教えてなかったから大変だったでしょ?でも、ちゃんとこうして買ってこれたっていうことは、ゾロア、すごくがんばったんだよね?
ありがとう!ゾロアも、とってもえらいわよー!」

「ロ、ロア……っ、ロアァー……っ!」


他者に対して距離を置きがちで人見知りなゾロアが、自分から道を尋ねたり、お店の人に自己主張をしたり、そんなゾロアの一生懸命な姿がどうしようもなくハッピーだった。
おつかい1つにとても大袈裟だろうが、それもメイたちにとってはどうでもいいことだった。

きっとイーブイと一緒だから、あそこまでがんばれたのだ。
イーブイの元気さや破天荒っぷりが、大人しいゾロアをいい方向へと動かした。
2匹が一緒になって踏み出した一歩に、ゾロアの成長に、メイはハッピー!と声を上げる。

感極まったらしいエアームドが2匹に飛びついて、メイもそれに続いた。


「本当にふたりとも、よくがんばったね!ちゃんとおつかいできたね!えらいわよー!
わたし……わたし、とってもハッピーよー!」

「ブーーイー!」

「……ロア!」


とびきり嬉しそうな顔で笑う2匹を見て、フタチマルとデンリュウは顔を見合わせると、一緒にメイたちの輪に飛び込んだ。




その日の夕飯は、フタチマルが腕によりをかけて作ったトマト料理と、デザートにカラフルなポフレが並ぶ、とってもハッピーな食卓でした――と、メイのレポートには書き記されていた。


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