おつかい!
ゾロアは、気まずそうにうつむくと、再びスイート味のポフレを指で示す。
ショーケースをこつこつと指先で叩き、ちらりとほんのわずかに店員を見上げた。
彼女は相変わらず首を傾げていて、やはり人間の姿に化けても言葉が通じないものなのだとひそかに落胆してしまう。
けれど、もう一度こつこつと指先でピンク色のポフレのショーケースを叩くと、店員は「もう1つお求めですか?」とゾロアに尋ねた。


「……!」


こくこく、首を縦に振るゾロア。
ゾロアが意図することを察した店員は再び笑みを浮かべると「かしこまりました」と言い、もう1つ、スイート味のプチデコポフレをトレイに乗せる。
イーブイが再び不思議そうに目をしばたかせてゾロアを見上げるが、すぐに合点がいって、なるほどな!ときゃんっと一声吠えた。
1つは自分用で、もう1つはエアームドのために選んだのだと。
ぜんぜん女の子らしさが感じられないけれど乙女趣味のエアームドがここにいれば、絶対にピンク色の一番可愛いポフレを選ぶに違いなかった。
ゾロアがエアームドのことをちゃんと考えて、何が彼女を喜ばせられるかを考えられる性格になっていることを目の当たりにして、イーブイは笑顔を浮かべる。


「ブイブイ!」

「ビターのプチデコポフレをお1つですね?」

「ブイっ!」


それなら自分はフタチマルが好きだろう味のポフレをチョイスして、前足で示すイーブイ。
2種類のブラウンのポフレは色の濃さが違い、一番色が濃いものは『スパイシー味』と呼ばれ、主にほのおタイプのポケモンなどが好む辛いポフレなのだそうだ。
フタチマルは、甘すぎず辛すぎず、ほろ苦い味のビターテイストなポフレが好きそうだった。


「イブィ。」

「…………。」


それならデンリュウは、これかな?とゾロアが緑色のポフレを指差すとイーブイも同意を首の動きに乗せる。
食いしん坊で美味しいモノが大好きなデンリュウはどれを選んでも喜んでくれるだろうが、強いて言うのならこの緑色のポフレが一番きのみの新鮮な香りが強かったため、チョイスしたのだ。


「フレッシュ味のプチデコポフレがお1つですね。かしこまりました〜!
……あら、お客様。」

「?」


これでメモに書かれた通り、5つを選び終わったゾロアがホッとしていると店員から、もう少しだけ余分に買えますよと告げられる。
元々少し多めにお金を渡されていたこととトマトのおつりと合わせると、余裕があったのだ。
どれくらい買えるのかとイーブイがきゃんきゃん鳴くと、プチデコポフレならピッタリ2つ買えますねと言われた。

イーブイとゾロアが顔を見合わせ、同時に尻尾を振った。





ありがとうございました〜と店員の明るい声を背に店から出ると、ゾロアの肩の上から飛び降りたイーブイがきゃんきゃんっと高く吠える。
買うものは買えたし、はやくメイたちのところへ帰ろう!と鳴くイーブイにゾロアは「……ロア!」としっかりした声音で頷いて、駆け出した。


その様子を見ていたメイたちは、イーブイとゾロアのやり切った表情にホッとする。
「わたしたちも帰らないとねー」そう言ってエアームドを見ると、彼女は待ってましたとばかりに翼を広げ、ギャア!と張り切った金切り声を上げた。


「――――フタチ、タチ?」

「ンー?」


イーブイたちより先にカゴメタウンに帰っておかなければいけないため、いつもよりもスピードを出して飛ぶエアームドの背中の上で、フタチマルはメイにあることを尋ねた。
ちゃんと最後まで見届けなくてもいいのか、そう問いかけるフタチマルだが、その言葉がメイには理解が出来ない。
何かを訴えかけてくる眼差しを横目で見て、メイはニコリと笑いかける。


「イーブイとゾロアが帰ってくるの楽しみねー。」


間延びして言うメイの言葉に同じくおっとり語尾を伸ばしたデンリュウの同意の鳴き声が上がる。
エアームドもメイの言葉に笑顔を浮かべて、しゃがれた金切り声を短く響かせた。
そんな女の子組の陽気な様子にあてられたフタチマルは、ぱちぱちと黒目をしばたかせると、少ししてゆったりと微笑んで「フタチ」と鳴いたのだった。
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