おつかい!
教えてもらったスイーツ店まで無事に辿り着いたイーブイとゾロアが中へ入ると、真っ先に女の子たちでごった返した中の様子に驚いた。
新しいものに弱いことやスイーツの専門店という名義は、やはり女の子たちにとってはこの上ない魅力なのだろう。
あちらこちらからキャアキャアとはしゃぐ声にゾロアはわずかに委縮して、イーブイは目をぱちくりとさせている。
が、すぐに奥から焼き立てのケーキの匂いがしてきて、否応なしに口元が綻ぶ。
全体的に白で統一された内装に色とりどりのカラフルなスイーツがよく映えて、視界も胸の奥もくすぐられた。

人間用のコーナーとポケモン用のコーナーがそれぞれ設けられており、迷わずポケモン用のコーナーに足を向ける。
ショーケースの中には、イッシュでは定番のヒウンアイス、他にポロックやポフィン、そして。


「ブイ〜っ!」

「ゾロっ……。」


新メニュー追加の札が掲げられたショーケースの淵に身軽な動作で飛び移ったイーブイ。
思わずメイの姿のままゾロアが声を出すが、幸い誰にも聞かれていなかった。
ブイブイ!と鳴いて、これが欲しい!と主張するイーブイを、女の子たちの間をなんとか潜ってショーケースの前までやって来たゾロアが捕まえる。
すると、いらっしゃいませ、と若い女性店員のスマイルが向けられた。


「こちらは、イッシュ地方でメジャーなポフレを取り扱っておりまあす。」

「ブーイ!」


知ってる!とばかりに鳴くイーブイを抱いたままゾロアは改めてショーケースの中を覗く。

ピンクや緑やオレンジやブラウン、大体の色は決まっているが、ポフレの見た目がいろいろ違うのだ。
たっぷりとクリームが乗ったものもあれば、フルーツやクッキーの飾りが乗っただけのシンプルな見た目のものもあり、たっぷりのクリームにたくさんの飾りがついた豪華なものもある。
デコレーションが華やかなほど値段が高いようだが、そのあたりはよくわからないゾロアはイーブイをチラリと見やる。
あれがいいこれが美味しそうと目移りしているイーブイ。
ふさふさの尻尾が起こす風がメイに化けたゾロアのキュロットの裾をパタパタ揺らす。
否、ゾロアも甘いモノは大好物なので、甘い匂いと見た目をしたポフレに先程からうずうずと身体が揺れてしまっていた。
うっかり気を抜けてと尻尾だけが出てきて、イーブイに負けじとふりふりと揺れていることには気付かないほどに。

「何あれ?」「アクセサリーかな?」等の周りの女性客の不思議そうな視線にも、ポフレに意識を全部奪われていて、珍しく気付いていないらしい。

その様子を窓の外から見ていたメイたちが「ゾロア尻尾!尻尾〜!」と言うも気付かれない。
といっても、ゾロアたちに自分たちの存在に気付かれてもいけないのだが。


「…………。」


トマトのおつりと合わせて持ち金を出して、最低限の購入数量が書かれたメモを店員を見るゾロア。
彼らの予算がこれだけだと示された店員は、メモと照らし合わせて、「かしこまりました。では、種類はどれになさいますか?」と問いかける。
メモに書かれている数量は5つだそうだ。
ポフレはポケモン用のお菓子なので、メイの分を差し引いた手持ちの数分のポフレを選ぶべく、ゾロアはイーブイにどれにしようかと視線で問いかけた。

再びショーケースの淵に降り立ったイーブイは、端から端までポフレを眺めて、自分はコレがいい!とフルーツの切り身が乗ったオレンジ色のポフレを前足で示した。
フレッシュ味のプチデコポフレですね、と店員が言い、トレイの上にそれを一つ乗せる。


「ブイブイ?イーブ!」

「…………。」


イーブイにどれにするんだと問いかけられ、口の中で「ロア」と鳴いたゾロアは、おずおずとした指先でピンク色のポフレを指差した。
クラボのみのように小さくて真っ赤なチェリーがちょこんと乗ったそれは、並べられているポフレの中で一番見た目が甘そうで可愛らしいモノだった。


「スイート味のフルデコポフレがお1つですね?かしこまりました!」

「ロ、ロァ……っ。」

「?」


先程と同じくショーケースの中から一つだけゾロアの選んだピンクのポフレを取り出されたが、ゾロアが思わずポケモンの鳴き声のままストップをかける。
不思議そうに首を傾げてゾロアを見た女性店員から頭ごと視線をそらすゾロア。
ポケモンだとバレてしまいかねない行動にイーブイも警戒心が高いゾロアらしくないと、きょとんとしてゾロアを見上げている。
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