おつかい!
そうと決まれば、まずはこの辺り一帯のお店の情報を手に入れようとメイたちが勇んで行こうとしたが、「デーン」と、デンリュウからおっとりストップの声がかかる。
振り返ると、あれを見てというようにデンリュウのレモン色の手がイーブイたちのいる方向を示した。


イーブイたちの目の前に二人組の女の子が立っている。
バニプッチを肩に乗せたミニスカートの女の子と、ユニランを抱いたエリートトレーナー風の女の子だ。

えっ?とメイたちは目を丸くさせる。

何やらゾロアが女の子たちに話しかけている様子だった。

チュリネのイラストがプリントされたポーチからメモを取り出し、女の子たちに見せている。
書かれている内容を指でなぞって首を傾ぐゾロアの姿にメイたちは、ただただ驚いていた。


「ゾロア……。」


思わず零れ落ちた声は、幸いにも2匹の元まで届くことはなかった。



「なあに?これがどこに売ってるか知りたいの?」

「なら教えてあげるわ。あのね、あそこにサロンの看板が見えるでしょ?あそこの角を右に曲がって、それから……。」


ゾロアに見せられたメモを覗き込んで、彼らがポフレのお店を探しているのだと察した女の子たちは、親切に道を教えてくれた。
その様子に2匹が誰でもいいと適当に道行く人を捕まえたわけではなく、こういったことに詳しい年頃の、それも"女の子"を見繕ったのだとメイやフタチマルは理解した。
その判断は、大雑把なイーブイが下したのではなく、細かな変化に敏感で他者をよく観察しているゾロアが自ら行ったものであること。
また、それによって彼女たちの声掛けもきっとゾロアが自分からしたのだと――そう気付くとメイはますます目を丸くさせる。


「お店までの道、これでわかった?」

「あっ、ねえねえ!ついでに、そこのスイートっていう種類のポフレがおススメよ!
アタシのバニプッチも、そのポフレのあま〜いクリームが大好きなの!」

「ワタシのユニランは、フレッシュ味が好きなの。おんなじ緑色だからなんだけどね〜。
サワー味とかは甘酸っぱくて、爽やかな口当たりみたいだから、あなたのイーブイもきっと気に入るはずよ。」

「ブーイっ!」


きゃっきゃと笑う女の子たちの話にイーブイも楽しくなったらしい、明るい鳴き声を聞いたゾロアは何も言わないまま視線を下にそらす。
が、ぺこりと。先程のトマトをおまけしてくれた店主にしたように軽く頭を下げたゾロア。
女の子たちは「いいよいいよ」と笑うと、イーブイとゾロアにバイバーイと手を振って去っていった。


「……ブイブイブイ!イブゥ!」

「……ロアァ……。」


女の子たちと別れた後、彼女たちに自分から声を掛けてお礼まできちんとできたゾロアの頭をタシタシと前足で叩きながら、イーブイは尻尾を振る。
やるじゃん、ゾロア!と人見知りな彼の行動を自分のことのように喜んで褒めてくれるイーブイに、ゾロアがもごもごと口を動かす。
耳をぴくぴく動かして聞くと、ロア、ロア、と控えめな鳴き声の中に、確かに聞こえた。


――――ちゃんとできたらメイがよろこぶから。


その言葉にイーブイの目が一層輝きを増した。

もしもポケモンの言葉がわかるのなら、もしもこの場にメイがいたら、おつかいを無事に済ませること以上の喜びを「ハッピー」と紡ぐ言葉に惜しげもなく乗せるだろう。
肩まで下りたイーブイがメイの姿をしたゾロアの顔に自身の頬をぐりぐりと強くすり寄せると、ゾロアがくすぐったそうに眼を閉じてロアァっと鳴く。
普段は黒い毛に覆われているせいで表情の機微がわかり難いが、メイの白い肌に浮かぶ赤みがゾロアの気持ちを十分すぎるほどに表している。

閉じた目に弧を描いて、控えめにはにかむ顔を遠くから見ていたメイたちは、胸に溜まるぬくもりに笑みを零す。


「無事にお店の場所を聞き出せてよかったね。」

「フタチ。」


それだけではない収穫が彼らにあったことをフタチマルは見抜いていたが、それをメイに伝えてあげられる術はない。
けれど、それでもメイは幸せそうにイーブイとゾロアの笑顔を眺めていたから、フタチマルはあえて何も言わなかった。
ポムポムと手を叩いて喜ぶデンリュウと、ニコニコと上機嫌の笑みを湛えるエアームドと顔を見合わせて頷き合うと、歩き出した2匹の後を追いかけるべくメイと共に自分たちも動き出す。
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