おつかい!
メイから課せられたお仕置きという名のおつかいの1つを無事にクリアできたことと、大好物のトマトをおまけしてもらったことにイーブイはご機嫌だ。
メイに化けたままのゾロアの頭に乗って、ルンルンと音符を纏った尻尾を振りながら、ブーイ!とゾロアに向けて鳴く。
やったな!と言うイーブイにゾロアは小さくロア、と鳴いて返した。
「ブイブイブイっ!イブィ!ブ〜イ!」
「……!ロア……?」
ぴたり、とゾロアの足が止まる。
頭の上でイーブイは語尾を弾ませてきゃんきゃんと鳴いている、その言葉の内容にゾロアは目を丸くさせた。
このおつかいをきちんとこなせたら、きっとメイが驚くし、いっぱい褒めてくれるぞ!と。
トマトを買えた喜びの根源にあるイーブイの思いを知ったゾロアは、黙り込む。
メイの姿をしているのに天真爛漫なメイには似つかわしくない仄暗い表情で、目元に影を落とす。
脳裏に「イーブイをよろしくね」と頭を撫でられた感触と「いってらっしゃい」と言ったメイの声や笑顔を思い出す。
イーブイが乗っかる頭に手をやると、イリュージョンしていてもメイが触れてくれた感触がはっきりと思い出せて、ゾロアの心に不思議な静けさをもたらした。
こっそりと自動販売機から顔を覗かせ、立ち止まっているゾロアとイーブイの後ろ姿を見ていたメイたち。
無事にトマトを買えたことに安堵の息を吐くデンリュウの後ろで、次はポフレを買う番だとエアームドが張り切っている。
エアームドが買うわけじゃないんだよとフタチマルがやんわり突っ込んだ。
「そういえば、ポフレのお店ってどこにあるのかしらー。」
「フタチ?」
「デーン?」
あれ?と首を傾げるメイ。
最近、スイーツ専門店が出来たことは知っているが、肝心の場所までは把握しておらず、そのことにフタチマルたちは目を点にした。
それからいち早くフタチマルがメイにもの言いたげな視線を送ると、それに気付いたメイがえへへと笑って誤魔化す。
ゾロアたちが立ち止まっているのも、きっとお店の場所がわからずに困っているからだろう。
どうしましょー?とデンリュウがゆったり首を傾げる。
ポフレが買えなかったら一大事だと焦るエアームド。
この世の終わりくらいの大袈裟な顔で目を見開いた彼女が、たまらず翼を広げてキシャアーッ!と金切り声を上げた瞬間、ゾロアたちが振り返った。
「?」
「ブ〜イ?」
間一髪のところで、みんなで一斉にエアームドを抱きかかえて自動販売機に身を隠したおかげで、メイたちの姿を見つけられることはなかったが。
「エアームド、しーっ。」
「エアァ……ッ。」
「フタチ、フタチ。」
大声出しちゃダメよ、とメイが人差し指を立てて注意すると、コクコク頷くエアームド。
フタチマルが2匹の様子を伺い、もうこちらを見ていないことを合図すると再び顔を出して、おつかいの行方を見守ることに。
「だけど、本当にどうするのかなあ。うーん、人に聞けたらいいんだけど……。」
「リュー。」
大好物のトマトのフレッシュな匂いはすぐに辿れたみたいだが、ポフレのお店はどうなのだろう。
少なくとも、先程の商店街の中にはなさそうだった。
人に聞けたらいいとメイは言うが、それがどんなに難しいことかはわかっているつもりだ。
人間にポケモンの言葉はわからないし、人間にイリュージョンしても言葉まで話せるようになるわけではない。
それにゾロアは、まだ人に完全に慣れていないのだ。
メイに対してだって、最初よりも仲良くなれてきてはいるが、まだ壁を感じることも少なくなかった。
そんなゾロアが人に聞くことはしないだろう。
こうなったら、とメイはフタチマルたちに耳打ちする。
先に自分たちがお店を見つけて、上手く2匹を誘導しよう!と提案するとすぐにそれぞれ肯定の仕草が返された。