体重計
少し前から嫌な予感はしていた。それでも真実を知るのが怖くて、ずっと目を逸らし続けた。
けれど、いつまでも逃げ続けるわけにはいかない。どうせいつかは向き合わなければならないのだ。だったら、少しでもはやい方がいい。
誰にも見られないよう脱衣場の引き戸を閉めて深呼吸をする。覚悟が揺らがないよう目を瞑り、恐る恐るそれの上に乗った。
三秒かけて目蓋を持ち上げ、結果を直視する。目盛が示す数字を認めて、ちさきは声にならない悲鳴を上げた。
(やっぱり太ってる!?)
体重計の上で青ざめる。
何度見直しても結果は変わらない。薄々そんな気はしていたが、現実を突きつけられるとショックで目眩がした。
(お母さんに料理習いにいくと、いつもたくさんお土産くれるから……)
ずっと食べたくても食べられなかった母の味だし、なにより母が嬉しそうに手渡してくれるから、つい食べ過ぎてしまった。
だが、これはだめだ。流石に看過できる数値ではない。
ダイエットしよう、と固く決意した時だった。
「ちさき、大丈夫か?」
引き戸越しに紡に声をかけられて、どきりとする。もしかして、先ほどの悲鳴が居間まで聞こえてしまったのだろうか。
とにかく、このことを紡に知られるわけにはいかない。
慌ててちさきは取り繕った。
「な、なんでもないから!」
「なんでもないように聞こえない。……開けるぞ」
「まって!?」
制止の声も虚しく引き戸が開けられる。咄嗟にちさきは体重計から下りた。この数値だけは絶対に見られたくない。
「なにがあったんだ?」
「えっと、その……」
心配そうに見つめられて、なんだか後ろめたくなる。うまい誤魔化しも思いつかず、つい体重計の方に目をやってしまった。
ちさきの視線を追いかけて、紡の目も体重計に向く。それだけで察してしまったのか、「なんだ」とほっとしたような、あるいは呆れたような顔をされた。
「そうよ、太ったの! わかったら、放っておいて!」
もう自棄になって、ちさきは叫ぶ。
だが、紡はその場から去らずにじっとちさきの身体を眺めた。
「太ったようには見えないし、そんなに気にすることないんじゃないか」
「べつに、慰めてくれなくても……」
ここでお世辞を言えるほど器用な人ではないし、本当にぱっと見はわからない変化なのかもしれない。いつもと変わらない嘘のない瞳を見ていると、その言葉に甘えて決意が揺らいでしまいそうだった。
「それに、抱き心地よくて気持ちいいから、今のままでいい」
それは、つまり肉付きがいいということではないだろうか。
揺らぎかけた決意が一瞬でまた固まった。
「やっぱり痩せる」
「いや、だから、今のままでいいって」
「紡はよくても、私がよくないの!」
普段は嫌になるくらい察しがいいくせに、どうして女心はわからないのか。
「絶対に痩せる!」と拳を握り、ちさきはむっと紡を睨んだ。
紡は困惑していたようだったが、やがて根負けしたように「無理はするなよ」と嘆息した。