ある朝
目を覚ますと同時に、障子から差し込む朝日の眩しさに紡は目を眇める。また眠りに落ちそうになるのを耐えようと目を瞬かせていると、耳元で寝息が聞こえた。顔を傾けると、隣でちさきが眠っている。抱き枕にするように自身の左腕に細い腕が絡んでいるのに気付いて、笑みが零れた。
心地のよさそうな寝顔は無防備であどけない。ほとんど無意識に、当然のことのように紡は滑らかな頬を、柔らかな髪を右手で撫でた。
しかし、しばらくそうしているうちに昨夜のことを思い出して首を捻る。
紡が帰省している間は紡の部屋で二人きりで夜を過ごすことが暗黙の了解になっているが、昨夜は休み明けに提出しなければならない課題があるからと、ちさきは自室に籠っていた。はやめに終われば部屋に来るとは言っていたが、結局日付が変わるまで待ってみても来なかったから、昨夜は一人で眠ったはずだ。なのに、何故ここにちさきがいるのか。
(俺が寝た後に部屋に来て、隣で寝たのか……)
ちさきの髪を撫でながら、覚醒しきっていない頭で考える。
と、むずかるような声を漏らして、ちさきが目蓋を上げた。
「おはよう」
「……んぅ、おはよう」
寝起き特有のふにゃふにゃとした声で返して、ちさきは目蓋を擦るように紡の胸にすり寄ってきた。朝日が眩しいらしい。
が、すぐに弾かれたように起き上がった。見上げた顔は赤く、わなわなと唇が震えている。
「違うの!」
「なにが?」
首を傾げながら、紡も上体を起こす。
ちさきは言い訳をするように続けた。
「本当はちょっと寝顔見たら部屋に戻るつもりだったの! なのに、気付いたら……」
「ああ、わかった」
寝起きの混乱と羞恥で慌てるちさきを抱き寄せ、あやすように背を撫でる。余計に恥ずかしがられそうだから口にはしないが、可愛くて仕方がない。そばにいたいと思っていたのは、自分だけではないのだ。
次第に落ち着いたらしく、ちさきはため息をついて紡に身体を預けてきた。
「課題は終わったのか?」
「あっ、うん。なんとか」
ちさきは頷き、ほのかに頬を染めた。
「だから、今日は一日、一緒にいられる」
「そうか」
横目で机の上の時計を確認する。起き出すには、まだ少しはやい。
紡はちさきを抱き締めたまま布団に倒れ込んだ。目を見開くちさきの額にそっと口付ける。
「じゃあ、もう少しだけこのまま」
確かめるように柔らかな身体をより強く抱き締める。
もう少しだけね、と苦笑して、ちさきも紡の肩に顔を埋めた。