紡が髪を切った。といっても、少し長めだった襟足が短くなっただけだが。
それでも、やはりどこか違っていて、ついじろしろと眺めてしまう。
「変か?」
「ううん、すっきりしていいと思う」
怪訝そうに紡に問われ、ちさきは世辞ではなく本心から褒めた。
紡は「そうか」と呟くと、背を向けて今脱いだばかりの靴を揃えるために膝をつく。
と、前は髪に隠れていた首の後ろがよく見えた。広い肩に乗った首は太く、うなじから背にかけて三角形に見える肌は少し日に焼けている。
そんなところを意識して見たのははじめてで、無意識のうちにちさきは手を伸ばしていた。
「っ……!?」
指先でくすぐるようにそっとうなじに触れると、大袈裟なまでに肩が跳ねる。
紡は庇うように首の後ろに手をやり、ばっと振り返った。その顔は珍しく狼狽えていて、ちさきはちょっと目を丸くする。
「なに?」
「えっと、なんとなく?」
ちさき自身も何故こんなことをしてしまったのかわからなくて、曖昧な返答になってしまった。
「ごめん、嫌だった?」
「嫌とかじゃないけど、くすぐったいからやめてくれ」
紡は照れたように、あるいは拗ねたように目を逸らすと、立ち上がって階段を上っていった。
その顔もはじめて見るもので、また見てみたくなったけれど、うなじはいまだ警戒するように掌で隠されていて、しばらくは無理そうだった。
最初はちさきのうなじを見る紡を考えていたのですが、いつの間にか逆になってました。
ちさきは紡には結構触れているような気がします。無意識なんでしょうけど。