おれの好きなこの場所を
見上げた夜空は、銀色の砂を散りばめたような星々の明かりで、少し青みのある黒だった。
そこに一筋、白い光が流れる。消えた先からまた流れ、流れるたびに数が増え、いつの間にか数え切れないほどの流星が雨のように星空から降り注いだ。
夢みたいな光景に思わず、すげー、と声が漏れる。

ふと、それとよく似た光景を思い出した。
ミヤコが目覚めたゲンシグラードンを鎮めた時のことだ。あの時も、ゲンシグラードンのつくりだしたエネルギーが弾けて、こんなふうに空から光が降り注いでいた。

おれはちょっと横目で隣に座るミヤコを見やった。ミヤコは瞳を輝かせて、一心に宇宙からの奇跡に見入っている。
こうして見ると、普通のおれと同い年の女の子だ。けど、本当は普通でなくすごい。ゲンシグラードンが目覚めて日照りが続いた時も、巨大隕石が地球に迫ってきた時も、なんとかしてくれたのはこのミヤコだった。
ミヤコはすごい。おれにとっては自慢の、一番の友達だ。
けど、みんなと同じように夜空を見上げているミヤコの横顔はやっぱり普通の女の子で、ふっと不安が浮かんできた。そして、それは天体ショーが終わる頃には確かな形になって、帰り道で口から零れた。

「あのさ、ミヤコはホウエン好きか?」

「いきなりなんやの」

ミヤコは訝しげに眉を寄せた。

「いや、だってさ、引っ越してきたばかりなのに、色々大変なことばっかだったろ? ほんと、色々背負わされてさ。だから、ホウエンのこと、嫌いになってもおかしくないんじゃないかって」

ミヤコは「そういうこと」と納得したように呟くと、深々とため息をついた。
思わず、びくっと肩が跳ねる。

「嫌いなもんを守るために命懸けられるほど、うちは人間できとりまへん」

えーと、つまりそれって…… 、

「ホウエンが好きってこと?」

「好きやよ。ホウエンも、ホウエンの人も、ポケモンも。だから、守りたい思て、頑張れたんや」

今度こそ、はっきり笑って言い切った。
ミヤコの背後でミシロタウンの家々がぽつぽつと明かりを灯していた。遠くの闇からは、ポチエナの遠吠えが聞こえてくる。
ささやかだけど、おれの好きなホウエンの夜の気配。

「そっか、ミヤコも好きなんだ」

よかった。
おれの好きな場所を、一番の友達も好きでいてくれてよかった。
胸の奥から込み上げてくるものがあって、自然と笑顔が零れていた。

「もし、うちが嫌いゆうてたら、どないするつもりやったん?」

「その時はおれが実際にホウエンのいいとこにつれていって、プレゼンしようかと」

「あら、それは楽しそうやね。でも、きっとうちは手強いと思うよ。なんせ、マグマん中や宇宙にまで行ったんやから」

茶化すようにミヤコは笑う。そこに挑発的な色を見つけて、ついおれはのってしまった。

「言ったな。じゃあ、そのうちミヤコがびっくりするような場所につれてってやるよ」

「ふふ、楽しみにしとるわ」

目的が変わってるような気がするけど、まあいいや。
ホウエン生まれホウエン育ちのおれがここまで言ったからには、絶対にミヤコをあっと驚かせなければ。
それからしばらく、おれはミヤコすら圧倒されるような場所を探し回ることになったのだった。
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