いつかのワンダーランド
「よし、腹も膨れたことだし、次はバトルといこうぜ」

広げられたお菓子がすべてなくなったのを確認してから、オレは切り出した。
トウカが頷き、お菓子を乗せていた器を片付けていく。オレとポケモンたちももちろん手伝った。

「ルールは6対6のシングルでいいよな?」

「ええ」

「よし、じゃあ、お前らは一旦戻れ」

オレとトウカはポケモンたちをモンスターボールに戻していった。戻す直前、好戦的なシーマとグリ、ムースとキッシュが対照的な表情ながら瞳を輝かせているのが見えて、少しおかしかった。
最後にレシラムを戻そうとして、ふと、手が止まった。隣を見ると、トウカもモンスターボールを握りながら思案するようにレシラムを見上げていた。

「レシラム同士で戦ったら、面白そうだよな」

「ええ。私も戦ってみたいわ、同じ真実の英雄として」

好戦的な笑みを浮かべて、オレたちは頷き合った。
レシラムも戻し、バトルするために距離をとる。

レシラムをメンバーに入れるなら、他のやつを1匹抜かさなければならないが、どいつにすべきか。トウカはどのポケモンをだしてくるのか。最初の1匹はどうするか。

ポケモンバトルに切り替わった頭で考える。それだけでもう興奮して、いつもよりはやく頭が回る気がした。

その時だった。

「フーパ!」

2本の角に金の輪っかをつけた魔神のようなポケモンが、突然目の前の空間を割って踊り出てきた。

「お前、あの時の!?」

そのポケモンは、オレをこの世界に連れてきた元凶だった。かち合った緑の瞳が嬉しそうに輝く。かと思うと、ぐいぐいとオレの腕を引っ張った。

「ミスミ!」

トウカが慌てて駆け寄ってくる。
魔神のようなポケモンの背後には、虚空に空いた黒い穴がある。多分、オレが落とされたものと同じだ。
その中に引きずり込まれそうになって、オレはなんとかその場で踏ん張った。

「オレを元の世界に戻しに来たのか?」

「フーパ」

魔神のようなポケモンは悪びれもなく頷いた。
なんなんだ、こいつは。勝手にこの世界に落として、勝手に元の世界に戻そうとして。

「元の世界に戻してくれるのはありがたいけど、もう少し待ってくれ」

「フー」

魔神のようなポケモンは首を横に振った。引っ張る力がどんどん強くなる。体重をかけるが、ずるずると足が引きずられはじめた。このままじゃ、穴に連れ込まれるのも時間の問題だ。どれだけ説得しようが、こいつは絶対にオレの願いなんてきいてくれないだろうしな。

ああ、くそ、しょうがねえ。

オレは振り返ってトウカを見た。トウカは躊躇うように中途半端に手を伸ばしていた。

「トウカ、悪いな。またバトルできなかった」

「そうみたいね」

トウカは残念そうに手を下ろした。
オレも今、同じような顔をしてるんだろうな。だからこそ、無理矢理にでも口の端を上げて笑顔をつくってやった。

「縁があったら、また会おうぜ」

トウカがはっとしたような顔をする。だが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。

「ええ、また」

その約束を最後にオレは魔神のようなポケモンと一緒に穴の中に吸い込まれていった。


******


次に目を開けると、そこはホウエン地方104番道路の砂浜の上だった。やけに疲れて仰向けに倒れると、青い空を横切っていく紫色のなにかが小さく見えた。
そいつに恨み節をぶつけるべきか感謝をぶつけるべきか迷っているうちに、魔神のようなポケモンは宙に空いた穴に消えていった。



→あとがき
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