故郷を歩く
木の葉の絨毯を踏みしめながら進んでいくと、だんだん波の音が大きくなっていった。
しめった潮風が木の葉を揺らしながら通り抜けていく。揺れる木々の間から、空とも海ともつかない青が見えた。
「よし、着いた」
他のよりも一段高く、幹も太い木の前で止まる。
その木の上から、虹色の梯子が降りている。足場の大きさがバラバラで少し不格好だが、意外としっかりしたつくりだ。
梯子を伝うように目線を上げていくと、茂った枝の間に小さなツリーハウスが見える。これも梯子と同じく、様々なパステルカラーで塗装されていて、緑と茶色の雑木林の中ではかなり目立つ。
「ミジュミジュ」
あれはなに、という目をして、ミジュマルがベルのスカートを引っ張った。
「あたしたちの秘密基地だよ!」
得意げな顔をして、ベルは答えた。
「そうそう。チェレンが設計して、オレがつくって、ベルが飾り付けしたんだ」
ゴミ捨て場と雑木林に落ちてるものでつくったわりには、なかなかうまくできてると我ながら思う。
廃材を組み合わせ、ビニールシートを敷いた上から木の葉を被せた屋根なんて、雨漏りもしない優れものだ。
「ちょっと狭いけど、中もすごいぞ」
さあ上るかと梯子に足をかけたところで、
「ミスミ、ストップ」
と、チェレンに止められた。
「なんだよ」
「僕たちは問題ないけれど、ポカブたちは梯子を登れないんじゃないかな」
オレはミジュマルとポカブに視線をやった。
タージャはオレのフードに入ってるからいいとして、この2匹の小ささでは、梯子を登るのは辛いかもしれない。
かといって、ベルとチェレンが抱えて登るのも心配だ。
モンスターボールに1度戻してしまえば簡単に解決する問題ではあるが、登りながら見る景色もなかなかのものだから、できればこいつらにも見てもらいたい。
3人で顔を見合わせ唸っていると、目の前で蔓が躍った。それを辿って振り返ると、タージャの緋色の瞳とかち合った。
タージャは蔓を上に持ち上げる仕草をする。
なるほど、そういうことか。
「お前が、蔓でポカブとミジュマルを上まで運ぶんだな」
タージャは口元に笑みをつくって頷いた。
それなら景色も見えるし、安全面もばちっりだ。
確認をとると、チェレンとベルも賛成した。ポカブは心配そうにタージャを見上げたが、ミジュマルに窘められて、一応は納得したようだった。
「じゃ、オレが最初に登るか。タージャ、落ちないようにちゃんと掴まっとけよ」
ジャ、という短い鳴き声とともに、後頭部を掴まれる感触があった。
ちょっと圧迫感があるが、タージャが落ちるよりはましか。
虹色の梯子に足をかけ、いつものように登っていく。ぎしぎしと嫌な音がするが、いつものことだから心配ない。
自分の背より少し高いところまで登ると、青々とした木の茂みの中に突っ込んだ。
手前の葉は濃い緑、奥の葉は光を受けて明るい黄緑に見える。実際に見たことはないが、きっと鳥ポケモンの巣の中もこんな感じだろう。
外はほとんど見えないが、それが秘密の通路みたいで、通るたびにわくわくする。
「よし、着いた」
梯子の先の足場に上がり、後から続いてきたベルに手を貸す。
その隣で、フードから降りたタージャがさっそく蔓を下ろしていた。
ベルが板敷きの足場に上がると、チェレンが梯子を登りはじめた。ベルが登るまで下で待機していたようだ。
チェレンが登りきるころには、ポカブとミジュマルも蔓でここまで上がってきていた。3人と3匹もいれば、小さな足場は許容範囲ぎりぎりだ。
さっさと入り口に吊るされた貝殻のカーテンを上げようと、手をかける。
「待って」
ベルが腕を掴んで、オレの手を止めた。
「なんだよ」
「あのね、それ、あたしがやってもいい?」
いつものように上目遣いでお願いされては、はいはいと了承するしかない。
「やったあ!」
ベルは花が咲いたように笑った。
ごほんと、咳払いをし、カーテンに手をかける。
「それじゃ、ようこそ!あたしたちの秘密基地へ!」