いつかのワンダーランド
「そういえば、ミスミがゲットしたポケモンは、今連れているコたちだけなの?」

ふと、そんなことを尋ねられ、オレは少し返答に困った。
ただゲットしたポケモンならもっとたくさんいるが、一緒に旅をしないかという誘いにのってくれたやつ以外は逃がしているから、仲間と呼べるのはこいつらだけだ、というのが今までの模範解答だ。
だが、それには少しだけ嘘が混じっている。
本当はもう1体いる。簡単にひとには見せられないオレたちの仲間が。

オレの返答を待つトウカの顔をじっと見据える。
トウカになら、見せてもいいか。オレの考えが正しければ、トウカもきっとオレと同じだろうから。

「実は、もう1体いるんだ」

オレはバッグから7つ目のモンスターボールを取り出した。
なにかを感じとっているのか、そいつはボールの中でそわそわと翼を震わせていた。

「でてこい、レシラム」

軽く放り投げたボールが空中で開く。純白が虚空に現れ、日の光を纏って煌めく。
そして、地を鳴り響かせてレシラムは降り立った。

「やっぱり、そうなのね」

凪いだ泉のような瞳でトウカは呟いた。

「私も、もう1体、ミスミに見せていなかったコがいるの」

トウカの手にはモンスターボールが握られていた。

「でてきて、レシラム」

軽く放り投げたボールが空中で開く。純白が虚空に現れ、日の光を纏って煌めく。
そして、地を鳴り響かせてレシラムは降り立った。

まるで、同じフィルムをもう1度流したみたいな光景だった。映画だったら手抜きだと笑ってやるところだ。

オレは目の前にいる2体のレシラムを見上げた。翼を畳み、レシラムたちは静かに見つめ合っていた。どちらも奇妙な心持なのか、時々落ち着かなく身体を揺らしている。それを見守っている他のポケモンたちも、程度の差はあれど驚いているようだった。いつもなら騒ぎそうなシーマとグリが大人しいのも、単純に驚きすぎて動けないせいだろう。
それほどあり得ない光景だった。1体しか存在しないはずのレシラムが2体並ぶなんて。パラレルワールドだからこそ、できたことだった。

「レシラムをゲットしてるってことは」

「ミスミも戦ったのね」

Nと――。

どちらともなく口にした名前は、重なって風に消えた。
沈黙が辺りに落ちる。次に、なんて切り出すべきかわからなくなった。ひらひらと視界の端で紅葉が落ちていく。

「ヤープー」

「ドーリュー」

沈黙を破ったのは、シャルロットとグリだった。2匹ともレシラムたちを見上げて、なにか話しかけている。
レシラムたちは苦笑のようなものを浮かべると、シャルロットとグリを交えて鳴き声を交わし合うようなった。それを皮切りに、他のポケモンたちも輪の中に入っていく。斜に構えたタージャとシフォンや、怯えてどうしていいかわからないパフェと一緒になって困惑したままのリク辺りは距離をとったままだが。

「トウカのレシラムの方が、毛並みがいいな」

やっと口に出せたのは、そんな些末なことだった。

「ママに教えてもらったブラッシングのおかげかしら」

「だから、他のポケモンたちも綺麗なのか」

オレとトウカは全然違う。
パラレルワールドとはいえ、同じカノコタウンに生まれて、同じようにチェレンとベルという幼馴染と育って、同じようにアララギ博士からポケモンを貰って、同じツタージャを選んで、同じように幼馴染と一緒に旅立って、同じようにNと戦ったとしても、オレとトウカは全然違う。よく似た道のりを歩んでいたとしても、その旅路もきっと違うものなんだろう。
今目の前にいるポケモンたちが証明していることを、オレははじめて気付いた気持ちになった。

「トウカが戦ったNも変なやつだったか?」

「不思議な人だったわ。それに、すごく勝手な人」

「オレもオレの世界のNには迷惑ばっかかけられたな。散々好き勝手しまくって、最後は晴れ晴れと旅立っていきやがった」

「それも同じなのね……」

かすかにトウカの瞳が揺れた。
オレはあえて見ないふりをすることにした。どう反応してやるのが正解か、よくわからなかった。

「今頃、どこでなにしてるんだか」

「どこにいても、絶対に幸せでいると信じているけれど」

「ああ、絶対にそうだ。で、そのうち前みたいにひょっこりオレたちの前に現れるんだ」

「そうだったら、素敵ね」

トウカの声がかすかに震えた。まるで泣きながら祈るような声だった。
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