いつかのワンダーランド
「ヒイィィン!」

「ゼブゼブ!」

「フィィ!」

そんな思考を遮ったのはシーマとワッフルのはしゃいだいななきとパフェの痛ましい悲鳴だった。
そっちを見ると、シーマとワッフルがパフェを追いかけ回していた。シーマとワッフルは遊んでいるつもりらしく楽しそうに笑っているが、追いかけられているパフェは必死の形相だ。2匹のゼブライカが怖くて堪らないらしい。

「ワッフル、だめよ!」

「シーマ、とまれ!」

言葉で制止するが、それでとまるようなやつらではない。
代わりにキッシュとムースが間に割り入り、シーマとワッフルを押しとどめた。力比べか! と瞳を輝かせて、シーマとワッフルはキッシュとムースを押し返す。負けじとキッシュは素早く羽ばたき、ムースも力強く踏ん張った。
奥で「リュウー」とグリが野次を飛ばし、つられるようにアルとシャルロットも「クアー」「ヤプー」とよくわかってないような声援を送る。少し離れたところでは、シフォンが意地の悪い笑みでパフェのことを見ていた。

一方、パフェは背後でそんな勝負がはじまったことに気付いておらず、いまだに一目散に逃げ回っていた。ミルフィーユが捕まえにいくが、逃げ足がはやくて追いつけてない。

「フィィ!?」

その時、パフェがなにかにぶつかった。それはリクの横っ腹だった。リクの身体を覆う長い毛に埋もれて、なにが起こったのかわからずパニックになる。あたふたと、マントのような黒く長い毛の中で紫色の塊が跳ね回った。

「ばう」

リクは身じろぎし、うまくパフェを背中に乗せた。大丈夫だ、とでも言うように落ち着いた声で鳴いて、ゆらゆらと身体を揺らす。あれはランが――リクの母親がリクを落ち着かせる時によくやっていた仕草だ。

しだいにパフェも落ち着いたのか、リクの背中で大人しくなった。
リクがゆっくりと歩いて、オレたちのところにやってくる。トウカの前でとまって、ばう、と鳴くと、リクの首元に埋まっていたパフェが顔を上げた。「ありがとう、リク」とトウカがリクの頭を撫でる。

「パフェ、おいで」

トウカが腕を広げて呼ぶと、パフェはとんっとトウカの膝に跳び乗った。甘えるようにすり寄って、トウカに耳の付け根を撫でられる。怯えていた顔が徐々に安らいでいった。

「リク、よくやった」

リクの首回りをくすぐるように撫でてやる。リクは気持ちよさそうに目を細めた。
しばらく堪能すると、リクはついとパフェに顔を向けた。

「ばうばう」

「フィ、フィィ」

リクがにおいを嗅ぐようにそっと鼻先を近付ける。パフェは一瞬びくりとしたが、恐る恐るながら同じように鼻先を近付けた。挨拶でもするように小さな鳴き声を交わす。リクが笑顔を向けると、パフェもちょっとだけ目を細めた。

「臆病者同士、気が合ったみたいだな」

「そうみたいね」

オレとトウカも顔を見合わせて、安堵の笑みを浮かべた。
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