いつかのワンダーランド
「ドーリュー!」

だが、そこにグリが駆け寄ってきて、驚いたパフェはまた洞の中に引っ込んでしまった。
あいつは本当に空気を読まねえな。
キッシュも同じ気持ちなのか、半目になってグリの顔を睨んだ。

グリの興味はパフェではなく、キッシュの方にあるらしい。きらきらした瞳で、キッシュの鋭い鎌を見つめている。
キッシュの方も悪い気はしないらしく、毒気を抜かれたような顔で鎌をグリの目の前まで持ち上げた。

「リュウ、ドリュー」

「スト、ストラ」

キッシュはひらひらと風に乗る紅葉を素早く鎌で一閃し、真っ二つにしてみせた。
スピード、技のキレ、どれをとっても高い実力を窺わせる一太刀にグリの瞳がさらに輝く。

「ドリュ!」

グリも自慢の爪を煌めかせ、同じように落ちてくる紅葉を切り裂いてみせた。
どうだ、とばかりに胸を張るグリにキッシュが鋭く目を細める。グリとはタイプが違うが、強さを追い求めているという点では似通っているのかもしれない。

「ジョフ」

そこに、自分も負けていない、というようにムースもやってきた。拳を突き出し、その衝撃波で舞い落ちる紅葉を粉砕する。
単純なパワーだけなら、3匹の中で頭一つ抜けているかもしれない。グリも気になるらしく、長い毛に覆われた腕の筋肉を爪の先でつんつんとつついていた。

「キッシュもムースもすげえな」

「グリもね。とても強そうだわ。素敵」

トウカの声は落ち着いていたが、瞳にはかすかにトレーナーとしての炎が宿っていた。
クールでミステリアスな印象だったが、トレーナーとしては案外熱いものを持っているのかもしれない。それは元からなのか、ムースとキッシュに感化されたのかまではわからないが、だからこそ、あの2匹はトウカと一緒にいるんだろう。

「お菓子がなくなったらさ、腹ごなしも兼ねてポケモンバトルをしないか?」

ふと思いついた、だが、前に会った時からしてみたいと思っていたことを提案してみる。
訊いておいてなんだが、きっとトウカは断らない気がした。

「ええ、喜んで」

予想通り、トウカは口の端を上げて頷いた。
その笑みはアマネとは全然違ったが、アマネと同じ、確かな実力を持ったトレーナーのものだった。


******


「ヒイィィン!」

「ゼーブー!」

一緒にお菓子を食べ回っていたシーマとワッフルが、突然同時に駆け出した。青と白の稲妻が紅い木の葉の中を駆け抜けていく。
腹ごなしのかけっこか?

「ぶつかるなよ! ちゃんと前を見ろよ!」

注意するが、2匹が聞いてくれてるとは思えない。グリの楽しそうな声援には応えるくせに、オレのことは見てもくれねえし。
タージャになにかあったら止めてくれと頼んでおくが、こっちも鼻を鳴らしただけで、聞いてくれるかは微妙だ。
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