掌の温度
「ボクは観覧車が好きなんだ」

そう言うと、Nさんはおれの手を掴んで観覧車に飛び乗った。
いきなりのことで呆然とするおれに気づいているのかいないのか、Nさんは椅子に座って前にも聞いた思い出話を語り始める。こうなると本当に長い。たった数回の出会いで、おれは嫌というほどそれを学んだ。
ずっと立っているのも変だから、おれも椅子に座って「Nさんの手冷たかったなー」なんて、Nさんの声をBGMに現実逃避をはじめた。
今日はまだ暖かいから、きっとNさんは平熱が低いのだろう。
おれも昔、リッカと握手したときにそう言われた。確か、その後に「ひさっちゃんはその分心があったかいんだろうねー」と続いたんだっけか。
そんな迷信を信じるわけではないけれど、Nさんもそうなのかな。
ゾロアークのネイビーがあんなに懐くくらいだから、優しい人なのは確かだけれど。
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