強くなりたい
「過労です」

アララギ博士と同い年くらいのポケモンドクターは、叱るような目でそう告げた。
その奥にあるベットの上に、たくさんの管をつけられたタージャが横たわっている。

「過労……?」

「ええ。そうとう無理をさせたのね」

心当たりはありすぎるほどにある。
2番道路から両手じゃ足りないくらい連戦してきたんだ。疲れてないはずがない。なのに、あいつが全然そんな素振りを見せないから、大丈夫なんだと思ってしまった。
わかってるつもりで、全然わかってなかった。
無意識のうちに、膝の上に置いた手を握り締める。
情けない。
カラクサで変なやつ相手に息巻いておいて、このザマだ。

「あのツタージャは疲れを見せない子なのかもしれない。でも、だからこそ、トレーナーが気遣ってあげなければいけないわ」

消毒液の匂いに満ちた白い空間に、言葉の端々に険を滲ませた女性の声が響く。
掌に食い込む爪の痛みさえ気にする余裕もなく、オレはただ、ぴくりとも動かないタージャを見つめた。その目はかたく閉ざされ、もう二度と開かれないんじゃないかと不安に駆られる。

「……あの、タージャは大丈夫なんですか?」

やっとのことで絞り出した言葉は、自分でもわかるくらい震えていた。

「安心して。このまま休ませておけば明日の朝には回復するわ」

「よかった」

身体の緊張が少しだけ緩まった。
頭にそっとドクターの手が置かれた。怪訝に思いながらドクターの顔を見上げると、帽子越しに頭を撫でられた。その手つきは、アララギ博士のものに少し似ていた。

「あのツタージャを抱いて駆け込んできたときは無知で無責任なトレーナー失格の子供かと思ったけど、見込みがまったくないわけじゃなさそうね」

さっきよりはいくらか和らいだ声が降りてくる。

「さっきまで説教しておいてなんだけど、あまり落ち込まないでね。ツタージャが目覚めた時に心配するといけないから」

これは、励まされているのか?

どう受け取っていいかわからず呆然としてる間に、頭を撫でていた手が離れていった。

「さて、ツタージャのことは私に任せて、あなたも、もう休みなさい」

「えっ……」

ちらとタージャに目をやる。
心配だが、ここに自分がいても何もしてやれないことは明らかだ。
オレは居住まいを正し、ドクターに頭を下げた。

「タージャのこと、お願いします」

「ええ、任せてちょうだい」
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