戦いはじめ
「お前、オレと旅するのと野生で生きるの、どっちがいい?」

オレは捕まえたばかりのチョロネコと目を合わせ、なかばやけくそに訊ねた。
チョロネコは考えるそぶりすら見せずにそっぽを向くと、さっと駆け出した。近くの藪に入ってしまい、すぐにその姿は見えなくなる。

そんな気はしてたが、またか。

自分なりにポケモンの声を聞こうと決めて以来、捕まえたポケモンには必ずこの質問をするのだが、いつもこうだ。
この辺りのポケモンはあらかた捕まえたはずなのに、手持ちのポケモンはツタージャのタージャとヨーテリーのリクだけ。
こいつらに不満はない。この2匹とだけ旅するのもありかなとも思う。だが、この惨敗記録は結構くる。実はオレ、ポケモンにあまり好かれない性質なんだろうか。

チョロネコが入っていった藪を見つめて肩を落とすと、タージャが蔓を伸ばしてオレの肩を叩いた。

「そうだな。気にしても仕方ないな」

ふっと笑ったタージャに励まされ、オレはまた歩き出した。タージャは当然のようにフードに入り、半歩後ろをリクがついてくる。
捕獲に予定より時間をくってしまったが、日の暮れないうちにはサンヨウシティに着けるだろう。
生い茂る草を踏み分けて、サンヨウへと続く2番道路を進んでいく。
森を切り開いて作られた道は、草木の清涼な匂いに満ちていた。森の精気を肺いっぱいに吸い込めば、気落ちしていた心もすっきりした気がする。

しばらく道なりに進んでいくと、突然、オレより少し年下に見える少年が目の前に立ちはだかった。
視線がかち合う。
オレンジのキャップを被り、それと同じ色のタンクトップを着た短パン小僧は、オレに向かってモンスタボールを突きつけた。

「トレーナーとトレーナーの目が合うってことは、ポケモン勝負のはじまりさ!」

短パン小僧がモンスターボールを投げた。ボールが地面につくと同時に現れたのは、みはりポケモンのミネズミだ。尻尾を立て、鼻をひくつかせている。
目が合ったらバトルの合図、とは聞いていたが、本当に突然バトルを挑まれるんだな。
おもしれえ。

「よし、タージャ!」

「ジャ」

さっとタージャは前にでて、ミネズミに向き合った。
両手でメガホンを作った短パン小僧の声が飛んでくる。

「おーい、もうはじめていい?」

「おう、どっからでもかかってこい」

「じゃ、遠慮なく」

短パン小僧はにっと白い歯を見せた。

「ミネズミ、“かみつく”!」

「タージャ、“つるのむち”!」
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