アンダーグラウンド
一夜明け、ホドモエシティはプラズマ団の事件があったことなんて嘘みたいな活気に包まれていた。
朝飯を買いに入ってみたマーケットはこんな朝早くでも賑やかで、歩いていると昨夜胸の内を覆った靄も晴れていくような気がする。
あんなやつらのことを考えて沈んでいるなんてもったいない。楽しまなきゃ損だよな。

昨日はよく見て回れなかったが、マーケットには世界中から運ばれた様々なものが売っていた。だいたいの店は新鮮な食材を売っているが、花や漢方を売っている店もある。まだ朝なのにもう売り切れている店もあって、そんなに人気の店なんだろうか、と見ていたら、チャールズというやつが朝一番に買い占めていくんだと店員が教えてくれた。
ついでにその人に軽食をだしている店を教えてもらう。オススメされたのは、香ばしい匂いを漂わせるケバブ屋だった。

そこで産地直送の食材でつくられたというケバブサンドとポケモンフーズを買い、近くの木陰で相棒のポケモンたちと食べる。
ピタに包まれた瑞々しい野菜とピリ辛ソースが絡んだケバブは絶品だった。こんなに野菜がうまいと感じたのははじめてかもしれない。
ポケモンフーズも材料がいいらしく、いつものよりも食いつきがよかった。味にはうるさいジャノビーのタージャも満足した顔で尻尾を振っている。食欲旺盛なゼブライカのシーマとモグリューのグリなんて、瞬く間に食べ終えてしまった。
そこまでは、オレも微笑ましく見ていられた。問題はそこからだ。
食い意地の張ったシーマとグリが、ゆっくりと味わって食べるコアルヒーのアルとヒトモシのユラの皿に目を付けやがった。

「ぐりゅー!」

「ブルル!」

「クアクア!?」

「シィ!?」

アルとユラのもとにグリとシーマが突撃していく。ちょっとちょうだい、なんて可愛いものじゃない。略奪する山賊のような勢いだ。アルとユラもびびっている。

「グリ、シーマ、やめろ!」

食べかけのケバブサンドをハンカチの上に置き、まだ小さいグリを持ち上げて止める。シーマの方はタージャが蔓で足止めしてくれた。流石、こういう時は頼もしい。
グリとシーマが不満げに暴れる。硬い爪であちこち打たれて痛いが、トレーナーとしてここはびしっと叱ってやらねえと。

「あれはアルとユラの分だ! ひとのものを盗ったらドロボーだからな!」

「ばう、ばう!」

おっかなびっくりといった感じだが、ハーデリアのリクも加勢してくれる。だが、グリとシーマはブーブーと文句を言い続けた。
シーマの足止めを続けながら、タージャが肩を竦める。タージャ、お前それ、グリとシーマじゃなくてオレに呆れてるんじゃねえだろうな。
つっこみたいが、今はそれどころじゃない。どう言えば、こいつらもわかってくれるんだ。

とりあえず、目を丸くしているアルとユラに今のうちに食えと言っておく。アルは素直に頷いてまた嘴をポケモンフーズの山に突っ込んだ。
だが、ユラの方は考え込むように視線を彷徨わせ、おずおずと自分の皿をグリとシーマに差し出してしまった。
その様子があまりにも痛々しかったせいだろう。暴れていたグリとシーマが大人しくなり、きまり悪そうに顔を見合わせた。仕方なさそうな顔をして、お前が食べていいよ、とでも言うように顎をしゃくる。ユラはふるふると首を横に振ったが、いいからいいから、とでも言いたげな笑顔を浮かべて食べるよう促した。
まるで自分の分をわけてやるかのような態度だが、あれは最初からユラの分だからな。

「シィ……」

ユラは窺うようにオレを見上げてきた。
大人しくなったグリを下ろし、空いた手でユラの頭を撫でてやる。

「それはお前の分なんだから、全部お前が食べていいんだぞ」

うんうん、とグリとシーマも頷いた。

「お前らは反省しろよ」

トラブルメーカーコンビに釘を差しておくことも忘れない。2匹にはそっぽを向かれたが。
とはいえ、こいつらも今後はユラから飯を奪うことはないだろう。ユラ以外に突撃する可能性は大いにあるが。

「食えないなら無理して食うことはないけど、そうじゃないなら腹一杯食えよ。腹空かして倒れられたら、オレが困る」

「クアー」

この騒動の中でもマイペースにポケモンフーズをたいらげたアルも、おいしいよー、とでも言うようにユラに声をかけた。そのおおらかな笑顔にユラも微笑を浮かべる。小さく頷くと、またもぐもぐとポケモンフーズを食べはじめた。


******


騒がしい朝飯を終えたら、ジム戦のための作戦会議だ。
ホドモエジムに挑戦するのは報酬ともいえないような報酬を受け取るようでちょっと癪だが、どうせジムバッジを集めるなら全部集めたいからな。1個だけないとか、なんか据わりが悪い。

チェレンから聞いた話では、ヤーコンさんはじめんタイプのエキスパートらしい。鉱山企業の社長でもあり、アンダーグラウンド・ボスと呼ばれているとか。なんか強そうな響きだ。

「じめんタイプが相手だから、くさタイプのタージャは外せねえよな」

「ジャノ」

当然、とばかりにタージャは鼻を鳴らした。自信満々な態度が頼もしい。
それに対抗してか、単にジム戦にでたいのか、シーマとグリもアピールするように大声を上げた。
その意気込みは買おう。だが、今回は却下だ。

「お前らは別の機会にな」

ブーブーと文句を言われるが、ここは仕方ない。じめんタイプ相手にでんきタイプのシーマは不利だし、同じじめんタイプのグリで挑んでもエキスパートにはきっと敵わない。
で、ユラもほのおタイプだから今回はやめておいた方がよさそうだな。そうじゃなきゃ、自信をつけるためにもだしてやりたかったけど。
そうなると、

「リク、今回もお前を頼ることになりそうだ」

「ばう」

リクは自分を奮い立たせるように短く鳴いた。こいつも進化してさらに頼もしくなったな。人見知りやポケ見知りも前よりましになったし。

「あとは……」

よくわかってないような顔をしているアルを見やる。アルはクアーと首を傾げた。
コアルヒーはひこう・みずタイプ。アルは飛べないからひこうタイプではなくなってるが、みず単体でもじめんタイプには充分有利だ。
けど、アルにはまだポケモンバトルの経験があまりないんだよな。

「よし、ホドモエがお前のジム戦デビューだ! これから修行しようぜ、アル!」

「クアー」

修行がなんなのかわかっているのか不安になるくらいのんびりとした返事が木々の間に響く。
……これはこれで大物になるかもしれない。


******


数日間、グリと模擬戦をしてみたり野生のポケモンと戦ったりしてアルを鍛え、オレはホドモエジムに向かった。
前に来た時はプラズマ団がいたからジムの建物なんか目に入らなかったが、冷静な時に改めて見るとホドモエジムもなかなかすげえな。クリスタルのようなガラス張りの三つの塔を繋げた建物には至るところに金が使われていて、まさに豪邸って感じだ。ヤーコンさんは社長らしいから、そっちで稼いでるんだろうな。

自動ドアをくぐって中に入ると、外観に負けず劣らず豪奢なエントランスが広がっていた。中にもあちこち金が使われていて眩しいくらいだが、意外にも品はある。入り口のすぐ横には大輪の花が飾られた受付があって、そこにはいつものようにガイドーさんが、

「ようこそいらっしゃいませ! ホドモエポケモンジムへ! こちらのジムはリフトで移動してくださいませ!」

じゃない!? 普通の受付のお姉さんだ!?
もしかして、ここはジムじゃないのか? いや、でも、この人はホドモエポケモンジムって言ってるし……。

いつもとは違う出迎えに動揺する。
ヤーコンさんめ。こんな方法で挑戦者の出端を挫くなんて、策士だな。
とりあえず落ち着けオレ。受付の人が怪訝そうな顔してるし。
えっと、なんだったか。このジムはリフトで移動しなきゃいけないんだったな。

「リフトは……?」

呟きながらきょろきょろと辺りを見回すと、受付の人が「あちらになります」と掌でエントランスの奥を示して教えてくれた。そっちに視線をやれば、豪奢なエントランスには不似合いな無骨な機械があった。よく見たら入り口からそこまでまっすぐ赤い絨毯が敷かれている。普通なら迷うことはないだろう。なのに、どこにリフトがあるのかわからなかったなんて、思った以上に動揺してしまっているようだ。

深呼吸して自分を落ち着かせてから、絨毯の上を歩いてリフトに向かう。
リフトの前には最早見慣れた顔のガイドーさんが立っていた。どのジムでも必ず入り口にいる存在。ジムリーダーの個性が溢れまくったジムの中でも唯一変わることのないその姿に安心感を覚える。

「あっ、この前の。街に来て早々アレコレあって大変だったっすね。まあ、とりあえずはこれをさしあげるっす!」

「ありがとうございます」

いつものように渡されたお馴染みのおいしい水を受け取り、バッグに仕舞う。うん、やっぱりジムっていったら、これだよな。

「ジムリーダーのヤーコンさんは、じめんタイプポケモンの使い手! まあ、ここだけの話、じめんタイプのポケモンはみずタイプが苦手なんすよね。……じゃあ、なんでヤーコンさんは水のそばで暮らしているんですかね」

アドバイスしながら浮かんだ疑問にガイドーさんは首を傾げたが、すぐに気をとりなおして「このリフトを使って、ヤーコンさんの元まで降りていくっす」と受付の人と同じようなことを説明してくれた。
周りの床と違って鈍い色のリフトに乗る。とくに柵はなく、昇りと降りのボタンだけが飾り気なく取りつけられていた。
とりあえず、降りていけばいいんだよな。
ためしに降りのボタンを押してみると、リフトはゆっくりと地下に降りていった。
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