[7]不安
――真剣勝負をしてみるか――
師と仰ぐ戸部に、前々から言われていたことであった。心構えをしていたつもりでもあった。
ついに前日となっても、気合いは入れつつも全く実感がなくて、ただいつものように鍛練をして、いつものように過ごしていた。
「いつも通りでいいんだ」
自分に言い聞かせるように呟く。夕方、いつもの時間、いつも通りの木刀で、いつも通りの素振りをする。はずだった。
しかし愛用の木刀は今、足元に横たわっている。
いつも通りに振ったそれは、慣れ親しんだはずの自身の手から滑り落ち、音もなく地面に倒れたのだ。
「大丈夫…だいじょうぶ」
ぐ、と手を握ってみる。爪が手のひらに食い込むのが解った。
何故だか木刀を拾えず、ただひたすら立ったままそれを見つめる。
「大丈夫…」
沈む夕日に照らされた木刀は、まるで燃えているかのように赤く見えた。
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何でかは解っている。でも何だか解らない不安に教われる。
金吾はこういう不安について、戸部先生は気づいているだろうなと思いつつ言わない。戸部先生は金吾が、自分が気づいていることに気づいていることは解ってる。けどやっぱり言わない。
…ややこしい←
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