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[6]歌に思いを


 



今日は満月か、と隣で兵助が呟いた。その言葉に雷蔵も空を見上げる。
明日は授業がない。そのため今日は早く寝て、明日早く起きて自主練でもしようかと思い、夕飯と風呂をすませた。
そして、風呂で偶然居合わせた五年い組の久々知兵助と連れ立って長屋へ帰る途中であった。

「秋だな」

兵助の言葉に頷いた。もう山も染まり始めており、改めて秋の訪れを感じる。

「寒くなってきてるしね」
「ああ」

色鮮やかな紅葉も、時期に全て落ちてしまう。寒さはその予兆に感じられた。
「なんか」
不意に言うと、兵助がこちらを向く。

「ちょっと、寂しいな」

「どうして?」

「うーん…冬に向かって、どんどん色んなものがいなくなっていく感じがするから…?」

最後を疑問符にして言う。何とも言えない寂しさは上手く表現出来ない。
雷蔵の言葉に兵助は少し考えて。
「それは俺も思うよ…でもさ、それってつまり」
言いながら兵助は空を見上げる。そんな兵助を今度は雷蔵が見て。

「いなくなっているように、見えるだけなんじゃないかな?」

え?と思わず声を上げた。すると兵助はこちらを見て、少し困ったような顔をする。
「あー、上手くは言えないんだけどさ」
兵助は小さく笑うと、言葉を続けた。
「俺も、秋がきたら色々と…考えちゃうんだけど。でもそれって皆それぞれそうなわけだから…」
だから、えーっと、と考え込む。彼自身、まだつかめていないのだろう。

「えっと、つまり、一人だけの秋じゃないんだよな」

葉は染まり、空気は冷え、動物達は冬に備え出す。全てに平等に、秋は訪れている。

「…僕らは、自分勝手だったのかな」

考えずに出た言葉に、兵助が微笑むのが見えた。少し気恥ずかしくなってこちらも小さく笑う。


「行こう。冷える」
「うん」


明日は湯豆腐にしようかな、と身震いしながら言う兵助に、雷蔵は声を出して笑った。


月みれば ちぢに物こそ かなしけれ わが身ひとつの 秋にはあらねど

――――――――――――――――――――
百 人 一 首より。
センチメンタルな話を語ってしまってちょっと恥ずかしい五年生二人。
何気にこの二人の話を書くのは初めてだなぁ。


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