SSS



[2]歌に思いを






疲れた、という言葉も出ない程の疲労感。教師に直接の任務であるから覚悟はしていたつもりであったが。

――予想以上だったな――

しがない教科担当教師に無茶を言ってくれるものだ。朝焼けが眩しくて溜め息が出た。
もっともこの溜め息は、これから眠る暇なく行かなければならない授業に向けたものであったが。

一年は組の良い子達はきっと今日も元気なのだろう。

そんなことを思うと溜め息と一緒に小さな笑みが漏れた。
ともかく、軽く湯浴みでもして授業に備えなければ。




ふと強い風に顔を撫でられて。
だいぶ寒くなってきたな、と廊下から庭を見る。


――あ…――


「これは…」


思わず立ち止まり庭を見る。
草が纏う朝露が風でぱらぱらと散った。ほんの一瞬の出来事であったが、確かに見えた。
朝焼けに照らされて、それは宝石のように光っていた。
そう、それはまるで。


――糸が通っていない玉がこぼれ散るような…――


そう思った瞬間、不意に11人の子供達の笑顔が頭を過った。


「……太陽、風、草木、朝露…」


確かめるように呟く。

――否…――

何を考えているのだろうか。やはり少し疲れているのかもしれない。
再び歩き出す。しかし頭から先程の情景が離れない。


――…確かに、そうなのかもしれないな――


あの子達は、輝く力を持っている。
飛び立つ力も持っている。
だとしたら、自分の役割は――



「…さて、授業だ」



今日も、忙しくなる―――





しら露に 風の吹きしく 秋の野は つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける

―――――――――――――――
百 人 一 首 より。
土井先生でした。


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