学校の休み時間、何故か廊下にちるよが居た。

タケマルの顔が、一瞬だけ引きつった。
一瞬見間違いだと思いたかったが、緑の髪に毛布といった不思議な格好は、どこからどうみても、彼女、散累志ちるよだった。

普通であれば小学校程度の少女である彼女が一人でここに来れる筈が無い。ましてや彼女の格好は、全裸に毛布という、ある意味でギリギリな状態だから尚更だ。

ちるよはキョロキョロと頻りに顔を動かしていた。そしてタケマルを見つけると、

「あ!タケマル!!」

笑顔でタケマルの所に駆け寄ろうとする。当の本人であるタケマルは頭を抱えた。

ちるよが動く度に、じゃらり…と冷たい音がする。毛布の下に巻いている鎖のためだ。

「ちるよ!……っ、何で此所に来た…?」
「うん!ちるよはね、ルイがいなくて、さびしかったからきたの!!」

そう言い切ったちるよ。
再び頭を抱えるタケマル。

自分はよく話すが、人の話はそんなに聞かない、タケマルにどこまでもついて行くが、そのくせ目を離したらすぐにどこかに行ってしまう。あの夜の出会いから、タケマルは彼女に振り回されていた。
何時もならばルイがちるよの面倒やらでついている筈だが、生憎今日は用事等で遠出、帰って来るまで家に居ておくようには言っておいた筈だったが、ちるよは耐えられなかったようだ。

「……それにしても、よく此所が分かったな……」
「えっとね、くろくてながーいくるまにのってた、しんせつなおんなのひとが、ちるよをここまでおくってくれたの!」
「……九条院か………」

恐らく自分の名前を口にしたのだろう。
タケマルは後からその九条院ひいなに何やら問いただされるなと感じた。

「大体……すぐに戻るから外に出るなって言っただろうが……」
「だってちるよ、ひとりぼっちになるのはいやだから」

そう言って、ちるよは笑った。
前髪が少し揺れ、額にある古傷がちらりと見えた。
……傷は額だけでなく、彼女の体中にある。
幼い頃から虐待を受け続けたちるよは、そんな親を嫌う事は一度もなかった。どんなに酷い事をされても、ちるよは我慢をして笑っていた。

そんな彼女の笑顔を見る度、タケマルは自らの胸が絞められる様な想いになる。
ちるよの事を知ってから、タケマルとルイは、彼女を守ろうと、幸せにして見せると決めた。

「ちるよ……その、悪かった……」
「………?」

そう言ってタケマルは、ちるよの頭を撫でる。
当の彼女は、頭に疑問符がついていそうな顔だったが、すぐにまた笑顔になる。

「何だよ?ロリコンにでも目覚めたのか?」

ふと、後ろからか男らしい様な、女性の声が聞こえた。
振り向くとそこには、黒鐘ロンに花蝶院ゆきなの二人が居た。

「………テメェら……何時からそこに……」
「あら?言うならば最初からですけど?」

どこか癖のある笑顔でゆきなが答える。

「兎に角、ちるよの方は授業が終わるまでは別の方に任せておきますから、貴方は真面目に授業を受けたらよろしいかと……」

ゆきながちるよを自分の所に連れて、言った。

「……あーそうそう、ひいなの奴が後であんたに話があるってさ……まぁ予想はついてると思うが」

戻り際にロンが振り向き、ニヤニヤした表情で答えた。

結局その日の放課後、タケマルはひいなに呼び出しを受け、ゆきなとロンがちるよを連れて来るまで散々問いただされた……

ある日の事



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