美しい夢は残酷な嘘


灰葉の後を追いかけ、シャワー室に向かう。

ルイが少し気掛かりだったが、自分の事は気にするなとずっといっている。

ようやくシャワー室の更衣室に着いた時、灰葉はいなかったが、シャワー室の扉の方から何かが唸る様な音がする。

「灰葉!どこにいるの!」

「その声は・・・あいかサンかっ!」

「ねぇ、ルイから聞いたよ。パスワードあったの?」

「あぁ、二つ目のパスワードが見つかったのだ!皆も手伝って・・・・」

とりあえず向こうにいこうと思い、シャワー室の扉の取っ手を握る。


開かない。


「灰葉・・・開かないよ?」

「なんだって!?っ、なんてことだ・・・!」

「そういえば、さっきから何か唸る様な音がするんだけど・・・・」

「・・・・水だ!いつの間にか腰近くまできている!」

・・・え!?

そうこうしているうちに他の皆も集まって来た。
「モトっ!ルイさんっ!ボイラー室に行って水勢を調整できないか見てきてくれっ!」

「わ、分かった!」

灰葉に言われ、部屋を出て行くルイと支倉。

こうしている間にも、水は貯まっていくばかりである。

・・・しばらくの後、私は決心した。

「灰葉、今からそっちに行くから」

「え・・・・あいかサン?」

水が貯まっているので服を脱ぎたかったが、さすがに全部は脱げないため、せめてもと着ていたブレザーを脱ぐ。

「・・・・・崇藤さん、ルイの事、頼みます」

「伊豆魅之?」

息を吐き、扉に手を添える。そして・・・


・・・・・トプンッ・・・・


目を開けて見ると、水の中。

予想はしていたが、さすがに苦しい。

上の方で話している声が聞こえる。

そして、扉を潜り抜けた時、微かにだが何かがパタパタと揺れる音が聞こえた様な・・・

息が続かない。とりあえず、一旦、水面に上がらなければ・・・


「・・・ぷはっ!」

「あいかサン!?本当に来たのか・・・!ってどうやって!?」

「理由は後!皆は無事なの!?」

「あぁ、とりあえず、最後のピースのことなんだが・・・・」

「換気扇、気になるんだけど見ても良いかな?」

「・・・やっぱりあいかサンも気になるか?」

「え・・・?まさか!」

回転している換気扇の奥の方に、パズルのピースの様な物が貼り付けてある。

「やはりな・・・最後のピースが貼り付けられてある!」

「どういうこと・・・?パズルのピースは水の中にあるはずなのに・・・」

「確かに、今は水の中じゃないけど・・・」

来宮の呟きに、答える私。

「・・・いずれはこの部屋すべて、換気扇も水に沈む・・・その時に貼り付けてあったピースが離れるしくみになってる・・・!」

「つまりこのパズルは俺達が死んで初めて完成するのだ・・・!」

私の説明に灰葉が付け加える。

ピースのありかが分かったところで、この換気扇からピースを取るにはどうすればいい?

「何をしている・・・?パスを取らなければ溺れ死ぬぞ・・・!」

灰葉の方を見てみると、彼は自分の片手を着ていた上着で結んで・・・

「なっ・・・・灰葉!?一体何してるの!」

「ひいなサンっ、あいかサンっ、しげるっ!!3人は俺が守るぞ!ここで体を張るのが男の役目だっ!」

そう叫び、灰葉は自分の腕を換気扇に突っ込ませた。

ゴリゴリッ・・・と痛々しい音が聞こえ、多少の血が飛び散る。

「ひいなサン・・・今のうちにっ!!」

「・・・えぇ!」
水の中から何かが飛び出し、次の時には九条院の手にピースがあった。

「手に入れたわっ!最後のピースよ!」

九条院がピースを手に入れたのと同じ時、部屋に貯まっていた水が引いていくのが分かった。




「もうっ!馬鹿よ貴方はっ!」

シャワー室の奥の方で九条院の声と何か叩かれている様な音が聞こえる。

「あいか先輩・・・大丈夫ですか?」

ぼんやりとしていたら、後ろから来宮が話しかけてきた。

「私は平気。来宮さんは?」

「私も大丈夫ですけど・・・」

一瞬来宮が言葉を詰まらせた。

「あの・・・あいか先輩って、どこか悪いところがあるんですか・・・?」

私にすれば、意外な質問だった。

「・・・一応ね。でも、命に別条はないから大丈夫」

「・・・そうですか」

とっさに嘘を吐いてしまったが、来宮の表情が曇るのが分かる。

・・・いつまで隠し通せるだろうか・・・


その後、一旦私とルイの二人は保健室でしばらく休むと皆に言ってきた。

「あいか、大丈夫だったか?」

「・・・私は大丈夫って何回言わせる気?」

「ごめん。でも心配でさ・・・」

しばらくの休息の時。

その後来宮と九条院が来、その後に水沢も来た。
来宮と九条院の二人をベットで休ませ、私が水沢から話しを聞こうとした時・・・



・・・・カリ・・・カリ・・・・



何か、壁などをひっかく様な小さな音が。

「・・・!皆さん!」

来宮の呼ぶ声が、この後の騒動の始まりであった。